9-⑫ 頼むから真面目にやってくれよお前らあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 ヴァン達が屋上で魔力を込め始めてたときとほぼ同時、校庭の方では生徒会関係者がほぼ全員が揃っていた。

 バース、三連牙、ジウソー、ケガスクワー、キウホ、ミリア、そしてグレイ。生徒全員を呼びにいったキフドマ以外が校庭に集っていた。

 ツカッガ・リエッカー襲来のために材料を集めて、要塞の設計を考え、労働力もある程度確保されているためいざ真剣勝負の準備を始める、とはいかなかった。何やらキバとキバンカが話し始めていた。


「俺……この戦いが終わったら結婚するんだ……」

「だ、誰がこんな魔獣が襲ってくるかもしれない場所にいられるか! 俺は1人で部屋にこもる!」

「留守か……おかしいな? 待ち合わせしてたはずなのに……あ、窓が開いてる。ちょっと気になるな、見てみるか」

「か、勘弁してくれ! 話す! 俺が知ってることは何でも話す! だから命だけは!」

「はは、バカだろお前……ん、ちょっと小便いってくる。心配すんなよ、すぐ戻るからな」


 キバが話した語尾の言葉を使って、キバンカが考えた文章を披露する。そしてそれを使って新たな構文を行っていく2人組。それを交互に何度も行っていく。

 つまるところ何をしているのか。

 答えは、『しりとり』だ。

「……何でしりとりが始まっているのか、しっかりとした説明を求めてもいいか? しかも何でこれから死にゆくものが言いそうなセリフばっかり言っているんだ?」

 先のジウソーの助言を得たため、グレイは感情を押さえながら2人のやり取りに突っ込んだ。しかしそんな2人はグレイの様子を意外に思うことなくそのままのノリを続けた。


「誰かと思ったら副生徒会長じゃねえか! これから大きな戦いが待ってるんだろ? 緊張をほぐすために劇の中でよく言うセリフしりとり大会をキバンカと始めてるんだ!」

「黙れとかツッコミを入れるなよ? こうして俺達は精神を落ち着かせて全力を出せるようにしているだけだし! むしろ邪魔することこそ悪行だし!」

「しりとりしていることが問題なんだっての! お前達分かってんのか! 今はそんなことをしている状況じゃねえだろうが!」

 努力をするだけグレイの進歩を褒めるべきかもしれないが、にわか作りのものはすぐ倒壊する。キバとキバンカの悪ノリにあっさりグレイは元のグレイに戻ってしまった。

 そんなグレイの反応が面白い2人の悪乗りはさらに加速した。キバが大きく息を吸い込み、後を続けた。


「があがあ吠えんなよ! 何だよ! お前だって俺がさっき『な』で止めたら『な』でかえしてくれたじゃねえか! そうツッコミを入れながらしりとりにのってくれる面白い奴だと思ったのに! 副生徒会長のツンデレここに極まれり、と思っていたのに!」

「任務……これは最後の任務なんだ……大丈夫、これさえ終われば俺は故郷に帰れる……帰って父さんと母さんに謝るんだ……そしてこれからのことを、こんな人殺しなんかしなくて済む世界に行くんだ……」

「だからしりとりしてんじゃねええええええ!」

 キバがグレイの語尾を拾う。それを受けてキバンカが予想されるツッコミの出だしに来るであろう言葉を使った、ふざけきった文を構築してくる。そしてその思惑にのってしまったツッコミをグレイは先ほどから出してしまっている。グレイのツッコミのパターンを完全に把握されたが故のやり取りだった。

 そんな息の合った計算された連携、はめられている方としてはたまったものではないが、はまだ続いた。


「ええい! 先に行け! 後で必ず合流する! 俺はこいつらを倒してそっちに向かう!」

「『うへへへぇ! いくら叫んでも無駄さぁ! こんな辺鄙へんぴな場所では誰も来ないさぁ! じっくりと楽しんでやるぜぇ!』『だ、誰か……! 誰か助けて!』『そこまでだ!』『何ぃ!? 誰だお前はぁ!』」

「あのさ! お前ら状況分かってる!? キバは一体誰と突然戦ってんだよ! キバンカに至っちゃもう1人3役やってるじゃねえか! 内容も粗しかねえし! あと先に言っとくけどこっちに来んなよキウホ! 絶対お前が絡んだら面倒なことしかならねえのは分かってんだからな!」

 3人の絡みに興味を覚えたのか、そろりそろりと近付いていたキウホだったが、グレイの視線から逃れることはできなかった。しかし当人は指摘されたことに狼狽えることなく、むしろ胸を張って応えた。


「何を言ってるのよ! 私はただ単に『これは……そうだったのね。だから彼はあのとき墓場を荒らしたのね……! こうしてはいられないわ、白い粉末を入れたお茶を飲んでから断崖絶壁で犯行を自供しないと! ん? 何か物音がしたような気がしたけどきっと気のせいね。でも頭に垂れてくるこのねばねばした粘液は一体何かしら?』と言いたいだけよ!」

「どこから突っ込めばいいのか俺にはもう分かんねえよ! 後何気にお前もしりとりに乗っかってんじゃねえ!」


 グレイの言っていることはまともだ、常識的だ、正常だ。

 しかしキバとキバンカの作り上げた世界の中では異端、異常、不自然である。だからこそそれを糾弾した。

『はいグレイ! 脱落! 失格! 敗北! しりとりしなかった!』

「頼むから真面目にやってくれよお前らあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 もう付き合いきれない、涙ながらに絶叫してグレイは突っ伏した。

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