9-⑥ もちろん座薬式だ!
ツカッガ・サアの同族であるツカッガ・リエッカーが襲ってくる。
このウドツカヴの話を聞いたミリアとグレイは空き教室を後にし、バースを始めとした生徒会関係者、一応裏生徒会も含まれている、がいる部屋に入るなり事情を説明した。
魔獣が襲ってくることを。退治のためにガルフォードを再び使用することを。その足止めのために学校を要塞化するように提案してきたことを。
「学校を要塞化!? なんだよそれ! 超かっけえじぇねえか! ついでに地下に避難できる秘密基地型にしようぜ!」
「要塞化! 金属独特の光沢が学校中に施され、そこから見えるのは銃器を始めとした武器! そしてそこから発進するのは巨大機械人形達! おお! そそる! 男の夢と浪漫が詰め込まれた世界の実現!」
「何でそこに話が転ぶんだよ! つうか機械人形が発進なんてするか! 兵器を個人で持てるわけねえだろ!」
実際は既にヴァンは機械人形を4体も抱えているのだが、グレイはその事情を知らない。だが仮に持っているのを知っていたとしても何らかの口を出したであろうが。
ともあれグレイの説明にいち早く食いついたのは、キバとキバンカだった。そしてそれを続けた。
「何だよ! お前かっこよくねえっていうのかよ! 要塞化だぜ要塞化! 普段何もない普通すぎる学校が、男の大望溢れるところに変化するんだぜ? それで燃えないとかお前の方がおかしいだろ!」
「いかん、いかんぞグラディウス! そのような現実主義的すぎる話は! 夢を持たない奴が誰かを幸せにできるだろうか! できない! 何故なら誰かに夢を見させる奴にこそ人魔は付き従うのだから! 誰かを魅了するものというのはそれを兼ね備えているのだから! そういう奴こそモテるのだから!」
「今はそういう話をしているんじゃねえんだよ! お前らが何が好きとかどうとか、んなもんはどうでもよくてこれから襲ってくる魔獣をだな……」
グレイが必死で2人の抗議に返そうとしていたが、キバの興味関心はキバンカの発言に移っていた。色めき立ってその発言に食いついた。
「マジかキバンカ! 女にもてるにはそういうのが必要なのか!」
「ああ、間違いない! 情報源は俺の脳内だからな!」
「だぁから脳内情報はあてにならねえって言ったろ! しかも今話すことじゃねえだろそれ!」
三連牙の誰かがボケて片割れがそれにさらに乗る。そしてそれに突っ込む。ツッコミ役こそ違っていたが、いつものヴァルハラントが開演のベルがどこかで鳴った。
「こうしちゃいられねえ! 夢を見させることでモテるんなら俺は催眠術師になる! そうして世の女性という女性を寝かしつけることで俺はモテモテになるんだ! 全世界の夢を見たい乙女達よ! 俺の元へ集え! このキバ・ワーウーがいい夢を見せてやるぜ!」
「その夢ちげえよ! お約束のボケかましてるんじゃねえ!」
無視されるのが分かっていながら突っ込む自分はどこまでアホなのか、そんな思いをグレイも抱かないでもないが、それでも言わずにいられなかった。
そしてそれは案の定そうなった。グレイの言い分に興味を払うことなくキバンカが続けた。
「なら俺は催眠剤を作ろう! 小さい子が使っても大丈夫な安心安全な薬を作る薬剤師になろう! もちろんその間何されても目が覚めない深い深い眠りにつくそんな薬! そしてついでに催淫効果もつけてやろう! もちろん座薬式だ!」
「何でそこで錠剤で来ねえんだよ! それができてる時点でもう深いつながりができてるわ!」
これも再び無かったことにされるのが分かっていながら、グレイは口を出した。
そんな3人が繰り広げるくだらないやり取りを遠くから、お茶啜りながらキバットとバースが眺めていた。
「バースさん……ツッコミをしなくていいってこんなに楽なんですね……俺心の底からのんびりできてますよ……」
「ああ、見てるだけってすごく楽だよなー、あの3人のバカはずっと見ていたいよなー、ところでクッキーくうかキバット」
「あ、頂きます」
ボケットに個別包装されているクッキーを取り出し、キバットに渡すバース。その包装を解くなり、即座にクッキーをキバットは口に入れた。
「……お、砂糖がまぶしてありますね」
「いいよなーこれ。太りやすいのは欠点だけどやめられないよなーこの味。俺大好きでよ」
「じゃあ俺はこの間買ったチョコレートあげますね。どうぞ」
今度はキバットが取り出した包装済みの菓子をバースに手渡した。
「ポケットにチョコレートなんか入れてるのか? 溶けちまうんじゃ……っと思ったが溶けてないな」
「俺も初めて知った時は驚きましたよ。最初に少し焼いておくことでほぼ溶けないようになっているんですよ、最近出てきた焼きチョコっていうんですけどね」
「ほーう、そんなのがあるんか。俺菓子関係はそこそこに明るいつもりだったけど、これは知らんかったな。いいもの見つけたなー、キバット」
「でしょ? どうぞバースさん、たべてください」
促されるまでもなく、もう包装を切りバースは口の中にチョコレートを転がす。そして奥歯でかみ砕いた。
固体であるチョコレートが顎の力で容易に砕け、歯を通じて
その過程をたっぷり楽しんだバースはキバットに向かって親指を立てた。
だからこそグレイはどうしても思う一言を言わざるを得なかった。
「のんきに茶啜って菓子食ってんじゃねえよお前ら!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます