9-⑤ ……誰のせいでこうなったと思ってるんだ……
自己紹介で始まり、お決まりである終わりのあいさつをこなしていた。
ボケたことを言い、間髪入れずツッコミを入れていた。
うまく笑いのツボを押さえ、ちょうどいい速さで進行していた。
おおよそ今グレイとミリアが行ったそれは漫才と言えるだろう。質の点から見ても決して低いものではない。
だが同時にウドツカヴはある考えを抱かざるを得なかった。
(……何で俺漫才を聞いているんだろう?)
と。
本来彼は脈々とウドツカヴの家で受け継がれてきた、魔獣ツカッガ・リエッカーを討伐する使命を果たすつもりであるのに。
ツカッガ・サアを倒したヴァンとその一行。彼らを狙ってくるであろう、ツカッガ・リエッカーを協力して打倒しようとしていたのに。
作戦の決め手としてガルフォードの起動を頼み、自分がツカッガ・リエッカーを引き付けて、ガルフォードをぶつけることで決定打にしようとしていたのに。
それが何故漫才につながってしまったのだろう? 何で高校生男女のいちゃつきを見ないといけないんだろう?
そんな虚無感に似た何かを感じていたため、ウドツカヴは何の行動も起こせなかった。
だが2人の行いは無駄ではなかった。
「中々良かったぞ、グレイ、ミリア。とても楽しませてもらった」
先のミリアの悪口、そしていじられたグレイを見たため、完全復活とは言わないまでもある程度元のヴァンに戻ることができたようだ。余裕を感じさせる笑み、組まれた脚、よく響く音で手を叩いた。
「ああ良かった! 拍手が無いから滑っちゃったのかと思いましたよ! 『噺家殺すにゃ刃物はいらぬ、あくびの1つもあればいい』って聞いたことありますけど、本当にその通りでしたよ! あたし今の今まで本当にびくびくしていましたもん!」
「ははは、それならそれを巻き返すべくたくさん喝采を送ろう。ミリア、グレイ。見事な漫才であった。これならいつか行われるであろうお前達の結婚式で放映するいいネタとなるであろう」
この言葉がそれまで空気の抜けた風船の様に脱力していたグレイに息を吹き込んだ。ただしその息は怒りだったが。
「い、今の録画してたのか!?」
「当然! 我が友と我が部下が行った初めての共同作業! 夫婦漫才! 撮らぬわけはない! こんなこともあろうかと我が服に仕込んだ録画機器が大活躍してくれたわ!」
「やりましたねせんぱい! これで披露宴での出し物が1つ決まりましたね! 会長! ありがとうございます!」
頭を下げてお礼を言うミリア、だがグレイは頭を下げるどころか怒りで顔を真っ赤にさせた。
「絶対断る! こんなん流させるか!」
「なるほど! 現状で満足せず、さらに上を目指そうとするせんぱいの向上心の表れですね! あたし、感激です!」
「どうしてそっち行くんだ! 俺は見せるのが嫌だって言ってんだよ!」
「せんぱい! それは感心しません! 最初から玄人意識を持ってもいいことありませんよ! どんな芸の達人も最初は無料で色んな人に見てもらって、そして評価してもらうことで成長していくんです! いきなりお金取ろうとするのは間違ってます!」
「いい加減お前は発言の真意をくみ取ってくれよミリア! 俺がそんな意図をもって言っているように見えるか!」
「あたしはいつだってせんぱいの発言をちゃんと聞いていますよ! そしてその言葉の裏に隠されたものを読み取ろうと深く考えています! だってせんぱいが大好きですから! 言ってること全て理解したいですから!」
再び漫才的なやり取りが開幕してしまい、このままさらなる異常事態へと流れてしまいそうになる。
が、それを中断させたのは手持ち無沙汰になったヴァンだった。
2人の会話に入り込みたくない、邪魔してはいけないと考えたヴァンは、同じく話相手のいないウドツカヴに話しかけたのだ。
「ところでウドツカヴさんでしたか。何か私達に用があるのでは?」
「……ツカッガ・サアを倒したお前達を近いうちに同族でありはるかに規模も力も上の魔獣ツカッガ・リエッカーが襲ってくるはずだから今のうちに学校を要塞化していざ襲われても敵の進軍を阻むことができるようにしておきたいと考えたためお前達に接触してきたのだまたそこをツカッガリエッカー討伐のために修行してきた俺を始めとする面々で完全に足を止めさせガルフォードで止めを刺すという作戦を提案したかったからお前達に会いに来たんだ」
今を逃せば話せる機会は2度と来ない。そう考えたウドツカヴは一切止めることなく、言いたかったことを全て言った。一息を突くこともなく言い切ったあたり執念を感じる。
そして告げたことが重大事態であることが分かったミリアは思わず口走ってしまった。
「ええ! そんな重大な事を何で言わなかったんですか!」
「……誰のせいでこうなったと思ってるんだ……」
ウドツカヴは具体的な名指しこそされなかったが、グレイもヴァンも誰を指しているのか、察することができた。
だからグレイはミリアの代わりに深々と頭を下げた。
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