8-⑮ もう何度もしてきたわ!
魔力が注がれ映像中継機が稼働する。魔力を変換して光にして、飛ばす。
ヴァンが張っていた白い幕に映像を映し出された。最初こそ焦点がずれていたが、それも自動で調整して徐々に見やすくなっていく。
映し出された映像は十字型に線が入り、4分割されていた。それらに1体ずつ機械人形、合計4体が敬礼をして待機していた。
姿形こそほぼケガスクワーと一緒だが、違っている点もあった。右肩に名前が刻まれていた。
クガッカー、クガッチ、ツブイセ、リツブの文字がそれぞれの肩に刻まれていた。恐らくそれが個体識別の名前なのだろう。
「さあ機械人形たちよ! 順番に報告せよ! 我が命令をこなした実態を!」
はっ! と4体が一斉に畏まり、クガッカーと書かれた機械人形が話し始めた。
「私は町を破壊しました! 壁という壁に穴をあけ、厳重に閉ざされていた門を破壊しました!」
「私は森を破壊しました! 生い茂る木々をなぎ倒し、巨大岩石をもうち砕きました!」と、クガッチ。
「私は山を破壊しました! 爆発物を仕込みあちこちを爆破、山の一部を崩しました!」と、ツブイセ。
「私は大地を破壊しました! 掘削機械で徹底的に削り取り、最早現地は原型を留めていません!」と、ツリブ。
「くっ……!」
その光景を想像したのだろう、新たに怒りの炎がジウソーの目に宿る。対称的にヴァンの眼には恍惚とした喜びの色が灯った。
「くくく……ははっ! はーはっはっはっは! 全て! 全てが思い通りだ! そこにいる人魔の反応もさぞかし見ものであろう!」
「はい! そのため町の人々は大喜びです!」
「はい! 探検隊の人々は口々に感謝を述べています!」
「はい! 付近の住民達は大はしゃぎです!」
「はい! 喝采、いえ、大喝采が止まりません!」
「……………………………………………………………はい?」
機械人形達が最初に発したものとヴァンが発したもの。同じ言葉であるはずなのに、含んだ意味はまるで違った。
何が何やらさっぱり分からない。ヴァンの心境は疑問の洪水が起きていた。
「ヴァン様のご指示通り、町に存在する大規模食糧庫の壁や門を破壊しました! 不正に蓄えられた食料を解放することで、飢えに苦しむ町を破壊しました! 町中笑顔であふれかえっております!」
「ヴァン様のご指示通り、森を破壊することで遭難しかかっていた探検隊を救助し、その後人跡未踏の地を発見しました! 謎と絶望に包まれそうになっていた森を破壊しました! これで考古学が10年は進むと言われています!」
「ヴァン様のご指示通り、山を破壊して新たな貴金属類の鉱脈を発見しました! 寂れ、滅びの道を進もうとしていた山付近の住民達の破滅の未来を破壊しました! 明日から昔みたいに働けると感涙するものが続出です!」
「ヴァン様のご指示通り、乾いた大地を破壊することで地下水を掘り出すことに成功しました! 死の大地とさえ言われた土地でしたが、大量の水の供給から『またここに人の活気が戻ってくる……!』と歓喜の叫びで満ちています!」
「その修飾語達をどっから持ってきたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ヴァンは知っていた。このカウキョから譲られた機械人形が、最新式の装備を搭載していることを。そのため、容易に自分の命令をこなせることを。
ヴァンは知らなかった。譲られた4体の機械人形が、ケガスクワー以上の超高性能人工知能を持ち、自ら考え分析してから行動するを。さらにカウキョが
「ヴァンくんの役に立つように、決して不利になるようなことをしないように」
と言い含めていたことを。その上、
「高性能人工知能を持つあなた達だからこそ、ヴァンくんの指示に隠されたものを読み取りなさい。超一流に仕える部下とはそういうものなのよ」
と命じたことを。
だからこそ機械人形たちは考えた。ヴァンが下した命令を。
「破壊せよ!」とはどういうことなのか? 町や森、山と大地を破壊することで何をするつもりなのか?
機械人形達の知能は極限まで稼働し、お互いに相談し、過去のヴァンの行動と照らし合わせた末、答えを導き出した。
『なるほど! 破壊して人魔を救えと言いたいのか!』
その省かれたと思い込んだ部分をこなすべく、彼らは独自に困窮している場が無いか探し、そこの救済に動いたのだった。
『きちんとヴァン様のご指示の通り善行してきました! そしてこれもしっかりとやっておきました!』
「何をだ! この上何がある!」
全ての機械人形達がそろって右足を軽く上げて、下ろす。すると右肩から何かが飛び出した。
「我々は国王様公認のヴァン・グランハウンド様の指示で動いています! ご安心ください!」
『これを使ってヴァン様の広報活動も行っておきました! 世界中にヴァン様の名を知らしめることにも成功です!』
「バカあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
単純にしてこれ以上ない的確な突っ込みをヴァンは出さざるを得なかった。しかしそれが理解できない機械人形達は敬礼を思わず崩した。
『ええええええええ! 何故ですか!?』
疑問、だが言った直後、優秀な知能を持つ彼らは同時に思い至った。ヴァンの発言の真意に。何が言いたかったのか、深みを読んだのだ。
『これは失礼しました! 確かに善行とはひけらかす様なものではありませんでした! ヴァン様の奥ゆかしさをくみ取れなかった、謙虚さを考慮できなかった不肖の部下をお許しください!』
「そういうこと言ってんじゃない! このバカ! アホ! ポンコツ!」
次々から次へと機械人形達への悪口が思いついては口から飛び出してくる。しかしそれに反抗するどころかより深く頭を下げてくる機械人形達。
そしてヴァンは気付いた。今の一連の流れを目撃しているものがいることに。
ウドツカヴとジウソー。片方、ウドツカヴは状況が全く分からず疑問符を浮かべまくっている。これはヴァンにしてみるとどうでもよかった。
問題はジウソーだった。何とか腕だけ魔法で焼き切ったのか、拘束が解かれていた。
だがそれを足の解放に向けようとせず、それで頭を抱えていた。
「やっぱりお前が分からない……こんなことが偶然でできるわけがない。ということはこれらは全てお前の意志に基づいた指示……? だがこんな作戦を悪人が考案するわけがない……ということはお前は善人……? あああ……名も知らぬ手紙の人……私は早速挫けそうです……」
「落ち込むなジウソー! これは……そうだ、事故だ! 俺は悪人だ! この世の中を破滅に追い込もうとしている大悪党だ! それこそがこの世の中で一切の他解釈を許さない圧倒的事実! それを見失わないでくれ! 頼む!」
(……うん、状況は何一つ分からないけど、このわめいているのがヴァン・グランハウンドだな……良かった、普通の奴だな)
普段のウドツカヴならもっと洗練された考えをしているし、事態をきちんと見極める目を持っている。のだが、大分疲れに毒されていた、変人に会い過ぎた。
だからこそヴァンが普通に見えた。
(なんか色々話しているみたいだけどとにかく用件は伝えておこう。一応そこそこ急いだほうがいい事案だしな)
近付いてくるウドツカヴに気付かず、2人はまだ議論を続けていた。
「だが……だが口ではそういうが、お前がやっていることで救われた人魔が大半なのであって、それは正義であってお前の言っていることと矛盾しているのであって、それならばお前が嘘をついているとしか落としどころが無いのであって……」
「だからそれは間違いなんだって! 偶然と奇跡が重なってできただけなんだって!」
「そんな都合のいい偶然があるものか!」
「あるんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
魂の奔流ともいうべき、叫びをあげたのはヴァン。それだからこそやはり現実が納得できないため苦悩の底なし沼に沈んだのはジウソー。
そんな2人に声をかけるのは憚られたが己の役目もあるため一歩を踏み出したのはウドツカヴだった。
「あーヴァン・グランハウンド……」
「何だ! 今取り込み中だ! 引っ込んでてくれ!」
喧嘩腰ともとれる攻撃的な口調。しかしウドツカヴはそこで止まらず、自らの意志を言葉として伝えた。
「そうとばかりも言ってられんのだ。君に頼みがある。君にこの世界を救ってほしいのだ」
「もう何度もしてきたわ!」
歓迎されていないとは分かっていたが、まさかこんな返しが来るとは。ウドツカヴも思ってもみなかった。
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