8-⑬ その人からの激励を、応援を私は裏切れない……
ともあれ恐らくジウソーもその放送を聞いたのだろう、だからこそ王都で起きた事件の詳しい経緯を知っていたのだ。明確に証言を取ったわけではないが、ヴァンはそう推理した。
「……私はずっと迷っていた。お前はどっちなのかと。正義なのか悪なのか。この世の中、そうそう簡単に人魔を分けることはできない。だがそれでもどちらに近い存在なのかということでは分類することはできる。私はそう思っているし、これまでそうやって人魔を見分けてきた」
何か考えこむように目を閉じながら告げるジウソー。その目が完全に開いたとき、人差し指でヴァンを指した。
「その上で判断を下した。お前は、やはり悪だ。これまでのことで色々迷ったが、あれらは全て陰謀であり、策略であり、謀議であると結論付けた! お前の真実の姿は、魔王となろうする姿そのものだと確信した!」
(いよっ! 待ってたぞ! 真打ち! 筆頭! そうでなくては!)」
「しかしそれなら伺いたいものですな。何故私の呼びかけに応じたのかを。私のことを悪と考えているのなら、この呼びかけには応じたくなかったのでは?」
相変わらずの心と口の温度差、それをやり通している辺りヴァンには役者としての才能もあるのかもしれない。
それに今回もジウソーは騙し通された。ヴァンの言動にまるで関心を払うことなく、胸のポケットに手を入れた。
「私とてお前という悪に関わらなくて済むなら関わりたくなどない。悪に触れてよいものなどありはしないのだから。しかし悪と分かっているものを放置するのも同列の悪とさえいえるものだ。それに……」
胸に潜ませていたあるものをジウソーは取り出した。全体的に白く、長方形の形をしているもの。
封筒だ。その口の部分が切られていたため、中から手紙を取り出して広げた。
「この手紙の主の様に、お前を悪と見抜いた人がいる……名前こそ名乗ってくれなかったが、その人魔もお前をこの世の中で最悪の悪党、と評していた。そしてお前と戦う私を、決して一人で戦っているわけではないと励ましてくれた……その人からの激励を、応援を私は裏切れない……もし背いてしまうのならいっそ死んだほうがましだ……」
(やったあぁぁぁぁぁぁ! 王都からの帰りで出した俺の手紙! ジウソーに届いていたんだ! 気持ちが伝わっていたんだ! ジウソー最高! 君は偉い!)
応援してくれる人がいるから頑張れる。
多くの専門職を突き動かす原動力となりうるこれが、ジウソーにも今宿っていた。だからこそ過去のジウソーには見られなかった闘争心と自信が満ち溢れていた。
尤もその手紙を出したのがヴァンと知ったら、今度こそジウソーは人間不信にさえなりかねないほどの衝撃を受けるだろうが。
「だからこそお前を確実に悪と断定できる証拠を見つけ、それを公開すると決めたのだ。そのためには……ヘドロにだって塗れてやるさ」
「……」
ともあれヴァンにしてみると、理想とさえいえる状況の来訪に隠し切れなかった感情がこぼれ、笑みが浮かんでしまう。しかしそれを即座にセリフを継ぎ足すことで別の意味に置き換えることにした。ジウソーの態度に感心した大物悪党が浮かべる笑みに。
「それはそれはご立派な志であらせられますな。後世の人魔はきっとこういうでありましょう。『この時代、多くの人魔の目が文字通りの偽善にごまかされる中、ジウソー・オーだけは真実の目を持ち、孤高にも戦いを挑んだ。議論の余地なく最も偉大な勇者であった』と」
「何度も言わせるな。お前の話など聞いても楽しくない。自分は楽しく皮肉を言っているつもりかもしれないが、私はちっとも楽しくない。とっとと本題に入れ。私を呼んだ本題に。私が学校に復帰した祝いのために祝宴でも催すつもりでもあるまい?」
「いや、そのつもりですよ」
ですが、とヴァンが言うなり指を1つならした。
刹那、生徒会長椅子の背もたれから触手が数本飛び出した。
海に生息するイカを彷彿とさせる吸盤が付いた白い触手、それらがジウソーを急速に締め付けた。
腕を、足を、胴体を。吸盤で押さえつけ、ジウソーの身動きを封じた。
一瞬驚いたが、すぐさまジウソーは引きちぎろうと力を籠める。バースにこそ劣るがジウソーもかなりの力の持ち主である。そんな彼にしてみると、普通の拘束を引きちぎるくらい簡単なものである。
だが
(なんだこの力……!? どんどん服に食い込んでくる……!)
力をこめればこめるほど、断裂するどころかより束縛が強まってきた。ともすると血液の流れを止めているのではないか、そう考えられるほど圧搾。もし首に入っていたら命の危険性もあったかもしれない。
「私なりの祝宴ですがね。ああ、止した方がいいですよ。その触手は特別性。並大抵の力では切れません」
「……何のつもりだ?」
敵意を含んだ
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