8-⑩ もうやだ何で俺がこんな目にあわなければならないのか
会話の途中から何となく嫌な予感はしていたが、まさかこんな思考をしてくるとは。思わずウドツカブは嘆息込みの変な声を出した。
「しらを切る気ですか! いつもいつもあたしに優しくしてくれるせんぱいが! 大好きなせんぱいが何の反応もしないんですよ! つい先ほどまでちゃんと返してくれたのに! あなたと話す前まではいつも通りだったのに! つまりこれはあなたが何かしたとしか考えられません!」
「そうよ、グラディウス氏は確かに弱いうえに頭もいいとは言えない。礼儀もできていないところも否定できないわ。それでも私を幸せにしてくれた。私に返してくれた。この1点をやってくれた。そんな彼に何かするというなら、私は総力を挙げてお相手仕るわ」
魔法を展開してくる2人。どちらもウドツカヴに劣ってこそいるが、それでも並大抵の魔族を圧倒する魔力の胎動を感じる。もし完成された連携を行ってくるならウドツカヴでさえ危ういかもしれない。
(相手するのは得策ではない。だが、こいつらを説得できるか……無理だろうなー……)
まだ会ってから10分も経過してないが、それでもこれまでを見るに、この2人はカウキョと同位の存在であるとウドツカヴは悟った。悟ってしまった。だからこそさっさと離れたい。
だがそれでも自分が招いてしまった事態でもあるため、返答はすることにした。
「……俺は特別魔法をかけていないぞ」
それは嘘が一切ない、真実なる言葉。
しかしそれは届かない時が多々ある。特に恋する乙女には焼け石に水とさえいえるのだ。
「だったらせんぱいを脅迫したんですね! 何かしらの因縁をふっかけてせんぱいに脅したに違いありません! せんぱいに不当な力をかけるものは! 例え神だろうとこのミリア・ヴァレスティンが相手になります!」
「ふぅん。見抜いたわ。『魔法をかけてない』とは言ったけど、『物理的に何もしていない』とは言っていないわね。なるほど、つまり彼の舌を引き抜いたり傷付けたという訳ね。へえぇ、そう…………死ぬ覚悟ができてるようね?」
(……ほんっとよくこんな奴らと一緒にいられるな副生徒会長。小さいカウキョが2人いるようなもんだ。俺だったら絶対逃げてるぞ)
思い込み道なんてものがあるとしたら極まり過ぎている2人に、ウドツカヴはあきれ果てる以外選択できなかったし、したくなかった。
そしてグレイはそんなウドツカヴが放つ空気を察した。だから素直に暴露することを選んだ。
これまで視線を背けていたが、ウドツカヴ達に向き直った。
「ミリア! キウホ! やめてくれ! 俺は普通に喋れる! ただ単に……俺が2人を無視していただけだ!」
「せんぱい!?」
「グラディウス氏!?」
『無視していた』。グレイからこの言葉を聞いた現実が信じられず、驚き混じりの声をミリアもキウホも上げた。そしてそれに伴った顔色も。
その顔にグレイに申し訳なさを抱かせるに十分であり、それは次の言葉をつむぐ橋となった。。
「……2人には悪いことをしたと思っている。だけど理由もあるんだ。お前達にちょっと反省して欲しくて、自分の行動を省みてほしくてやったんだ。その魔族さんは関係ないから何もしないでくれ」
(……君は優しいやつだな)
グレイの言葉の端々に誠意と陳謝がこもっていたのがウドツカヴにも分かった。声色、表情、視線。全てがそれを裏付けていた。
となれば付合いの長い2人にそれが伝わらないはずはない。だからミリアもキウホもグレイの言っていることを真として見た。真実として見るのだ。
だがこの2人はどこまでも恋する乙女なのであった。
真実はあっさり歪み果てた。
「せんぱいにこんなことを言わせるなんて! あなた催眠術まで使えたんですね! そしてせんぱいにこんな風に喋らせて、自分への疑惑を逸らそうとしているんですね! その場しのぎにもほどがあります!」
「私の知るグラディウス氏がこんなことをいうはずはない。しかし現実は違う。ということはあなた、傀儡の魔法まで使えるのね。それでグラディウス氏を操ってこの場を逃れようとしている。浅ましくて卑劣な方法だこと!」
(もうやだ何で俺がこんな目にあわなければならないのか)
何となく2人の放つ空気から頓珍漢なものが来ると予想していたが、まさかこう解釈したものが来るとは。ウドツカヴはその場で思いっきりため息をついた。
一方グレイはずっこけていた。
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