8-⑧ こういうとき男性は女性の服を脱がしたくなるものなんですよ!

 近くにあった黒板に詳細を書き込み、物語の流れをすりあわせていくミリアとキウホ。それを見て一々反応を入れるグレイ。

 そしてただ見ているだけウドツカヴ。

(うん、俺帰ろう。そしてカウキョに頼んで潰してもらおうこの学校)

 どう考えても自分が入り込む余地が無い、その上自分が収集出来る範囲を超過しきっている現況。ウドツカヴはこの場からの逃走を選択した。

 図書室のドアを閉めようと力を籠め、動かした。そのとき


 ギィ、とドアが軋んで音を立てた。


 掛け合いが一段落ついていたから、特に激しかった2人が落ち着いていたから、その音はより図書室内で響いた。だから3人の視線を集めるのに充分な役割を担った。


「ちょうどいいわ。やる題材も決まったことだし、この魔族に演技を見てもらいましょう。演じるものにとって他者の、観客の視点というのはとても大事なものなのだから」

 短距離転移の魔法を使い、キウホはウドツカヴのすぐ近くまで飛んだ。そしてウドツカヴの肩を掴んで再び跳躍、グレイ、ミリアの近くへ再度跳んだ。

「あなた、ちょっと劇の練習をするから見てくれないかしら? 大丈夫すぐすむから。演じるところは……そうね。夏休み中盤くらい、教師と生徒が初めて想いを確認しあい、誰もいない図書室で添い遂げる部分をやりましょう。ちょうど場所も場所だし」

 被っていたフードを脱ぎ捨て、キウホは制服のボタンを外し始めた。それを止めに入るのはグレイなのは当然であった。


「夏休みで図書室が教師抜きで開放されているか! そしていきなり服を脱ぎ始めるんじゃねえ!」

「安心していいわ、全部脱がないから。半脱ぎになるだけだから。そういう方が好きでしょう?」

「そういう話をしてんじゃねえんだよ! 全てが狂ってる自覚を持てお前は!」

「そうですよ! こういうとき男性は女性の服を脱がしたくなるものなんですよ! ゆっくり服を脱がしながら相手の反応を伺うものなんだって! その顔色や呼吸で場慣れしているかどうかを見抜き、その後の対応を考えるんだって! 以前せんぱいが教えてくれましたよね! だからせんぱい! 今のあたしにそれをしてください! そしてあたしと2人で薪を切って沸かしたお風呂に入るところの実演をしましょう!」

「あのときのことを話すなあぁぁぁぁぁぁぁ! というかそんな場面が入ってるんならお前の方も論外だからなミリア!」


 『生涯の恥』と位置づけたことをあっさり暴露してきたミリアにグレイは絶望した。尤も当人にしてみるとグレイに話したつもりであるから、問題ないと考えていたようだが。

「ちょっと待って何それ? 私知らないんだけれど? グラディウス氏そんなこと話してたの? もしかしてあの映像のときに見られた耳打ち、そんなこと話してたの? 是非とも全部聞かせて欲しいんだけれども」

 2人に対して手を精いっぱい伸ばして、キウホは抗議の意を表明した。だがミリアがそれを突っぱねた。


「お断りします! せんぱいから絶対話さないでくれって言われてますので話せません! まずは最初にお互いが見つめ合って手を握り合う! その後息遣いを感じながら軽い口づけをするなんてこと話せません!」

「誰か手ぬぐいを持ってきてくれ! ミリアの口を縛る!」

「荒縄だったらあるけれどそれでいいかしら? 足りなかったら蝋燭とムチも付けるわ。なんなら目隠しも」

「何で学校に荒縄持ってきてるんだよ! ムチも蝋燭もそうだけど! どう考えたって使う用途がねえだろ!」

 指を鳴らして異空間から言った通りのものを次々と取り出し、キウホは手渡してくる。グレイは全て叩き落としたが。


「それにしてもグラディウス氏のその方法……! 王道であるが故に万人に通じる力を持っているこの手法……! グラディウス氏やるわね……! それで続きは? 早速話して欲しいのだけれど。もし嫌なら私にその内容を実演して欲しいのだけれども」

「どちらも断るを実行したいんだが!?」

「そうですよ! それを実行されるのはあたしなんですからね! だからせんぱい! あたしはもう準備万端だから早速お願いします!」

「……おーい、無理矢理こっちに連れてこられて放置されてる俺の立場をそろそろ考えて欲しいんだがー」

 さすがにもう看過できないと考えたウドツカヴの冷静な突っ込みだったが、それでもこの場を鎮めるのには不十分だった。3人のやり取りはまだまだ続いていった。

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