8-② 絶対叶う!!!!! 叶わない場合は全額返金します!!!!!

 謁見から1か月後。ウドツカヴはヴァルハラント学校に来ていた。

 広めに作られた校門。石と水、砂利を混ぜ合わせたもので作られた巨大な建物。ウヨギージュにはこの程度の大きさの建物はたくさんあったが、周囲には学校と同程度の建築物がないため、より大きく見えた。

 そしてこれこそがヴァルハラント学校だ! と主張するかの用に天にそびえ立つ砲台。今は稼働せず沈黙しているが、この世界を救った影の主役が屋上に鎮座していた。

(……あれがヴァンと共にこの世界を救ったガルフォードか。実際の力を見てみたいが、さすがに今はそれも叶うまいか)

 破壊規模は事前に聞いていたし、国王直属の部隊が作成した報告書も読ませてはもらった。それが故にウドツカヴは大体の威力の想像を行えていた。

 しかしそれでもやはり現場での確認はしておきたかった。そのため、多少不満を感じていたのも事実である。

(まあいい。まずは会うとするか。ヴァン・グランハウンドに。そのためには誰か学校の生徒に案内してもらわねば……)

 

 誰か声をかけやすそうなものはいないかとウドツカヴは周囲を見渡した。

 と、その時気が付く。

 妙に視界がおかしい。灰色がかって見にくくなっていることに。

 視界だけではない、鼻をつく独特の臭い。

 そこまで大きい音ではないが、何かが爆ぜる音まで聞こえてくる。これまで経験からすぐに正体は分かったが、何故?という疑問があらたに生じた。

(何かが燃えている……何故学校で燃えているのだ……? まさか火事!?)

 周囲を探すとその予想が間違いであることが分かった。

 だが同時に次の懐疑を抱くことにもなった。それはウドツカヴにしてみるとまことに奇妙極まる光景だったからだ。

 

 めらめらと勢いよく燃える炎。特殊薬品でも入れてあるのか、その炎の大きさは二階建ての建物に匹敵するくらいの大きさだ。

 その炎に向かって人族とハリネズミ型魔族が炎に向かって何度も何度も土下座し、あきれ果てた視線で竜型魔族がそれを眺めている。そんな混沌とした光景を見ていた。


「恋人来い恋人来い恋人来い恋人来い恋人来い恋人来い恋人来い恋人来い恋人来い恋人来い……それが無理なら恋人持ち死ね」

「小さな恋人来いー。舌ったらずな恋人来いー。胸が小さめな恋人来いー。手足が短くて服の裾を持て余してる恋人来いー。久々の来訪が嬉しいけど身長差からズボンの裾にしがみつくしかできなくて悲しみの入り混じった複雑な顔ができる恋人来いー」

「……………………お前ら絶対これだと来ないと思うぞ」

 竜型魔族が言うことに、飛び上がって怒りを表したのは人族の男だ。その口から唾を飛ばして主張し始める。


「何でだよ! キバット! こうしたら来るって書いてあったぞ! トステ先生の忘れ物の雑誌の中に書いてあった方法、これなら絶対来るはずだ! だって『この儀式のおかげで毎日がウハウハで困っています!!!!』という金髪美女を両腕に抱えて黄金の浴槽に使った人族の男の写真だって掲載されていたんだぞ!」

 近くに落ちていた雑誌を開き、その部分を見せつけてくる人族。そしてその声の大きさに比例するほど竜人も吠えた。

「どう考えても詐欺広告だって気付けキバ! こんな方法で恋人ができる可能性があるとでも思っているのか!」

「可能性は0じゃねえだろぉ! しかもここに『絶対叶う!!!!! 叶わない場合は全額返金します!!!!!』って書いてあるぞ!」

「どうせ絶対成功する雨ごい的手法とかそんなオチだ! できるまで祈り続けることが許されるならば、すべての確率は100パーセントだ!」

 キバと呼ばれた男とキバットと呼ばれた男が漫才を繰り広げているが、ハリネズミ型の魔族は変わらず土下座を続けている。


「恥じらいなく服を脱ぎ、お風呂に誘う恋人来いー。その中で『楽しいねお兄ちゃん』と言って浴槽の中で背を預けてくる恋人来いー。思わず伸ばした俺の手が脇に触れて『くすぐったいよぉ……』と即座に言ってしまう妹の様な恋人来いー」

「いい加減にしろキバンカ! さっきから聞いていてヤバいものを垂れ流しているんじゃない! そんなこと言ってたらますますモテる日なんか来るわけないだろ!」

「なるほど、確かに理想である2人きりの夜、ベッドのなかで『お兄ちゃんと私だけの……秘密、作ろっ?』と言ってくれるような恋人来いーとは祈っていないからな」

「救援! 救援を要請する! グレイ! 俺一人じゃ無理だ! 土産を要求しなかった俺の謙虚さを酌んで突っ込みを代わってくれ!」

 虚空に向かってキバットが吠えるがそれは空気の振動だけしか行わず、届けたい人には届かなかったようだ。誰も援軍には来なかったからだ。

 だからキバは改めて雑誌を持ち上げ内容を確認する。


「キバンカ! そろそろやるぞ! この儀式の仕上げだ!」

「まだ何かやるのか!?」

 呆れたキバットの声が校庭内に響く。

「ああ、生贄を捧げるんだ! 祈りをささげた本人が生贄として炎の中に飛び込み、そこで願いを捧げることで望みの人が現れるらしいぜ!」

「ようし! 実行だ! 待っててくれ可愛い可愛い恋人ちゃん! 大丈夫、お兄ちゃんは君のすべてが好きなだけだから! 笑顔も恐怖に歪む顔も好きなだけだから!」

「焼身自殺する気か変態ども! ………………それはそれでありかもしれないと思ってしまったじゃないかあぁ!」

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