第8話 ヴァルハラント学校の日常を見てきたのはウドツカヴ
8-① 私は早速彼の後援会を始めようかとさえ思うのよ
王都ウヨギージュにある謁見室。
国王であるカウキョ・ウーキュと面会できる数少ない場所であると同時、つい先日起きたヴァン・グランハウンドによる反乱未然鎮圧事件が起きた場所でもある。通常あれだけの事件が起きたら閉鎖されるものだが、特別破壊行動等が起きなかったから必要ない、と国王自身が言ったため今もなお謁見に使われている。
そしてここで今、カウキョはある魔族と面会していた。お付きに運んでもらった紅茶とお菓子を自分一人でつつきながら。その魔族の前には粗末なコップに酌まれた水だけおいてある。
それと直接的関係はないのだが、魔族の顔は全体的に暗かった。姿かたちは人族と近い。頭部、胴体、両腕両足と揃っている。しかしひときわ目を引くのは、額から生えている角。これから鬼の魔族であることが分かる。
着ている格好はボロボロのマントで全身が覆われているため、下に何を着ているのかまでは分からない。が、本人は全く気にしてないよう様で、服に関心を払うそぶりすら見せなかった。
「という訳なのよ。ね? ヴァンくんの悪を見抜く目が鋭すぎるが故に収まった今回の事件。これだけでヴァンくんがいかに最高なのか、ようく分かったわよね? ウドツカヴ」
「分かった。お前などに気に入られた哀れな人族であるということが」
ウドツカヴと呼ばれた魔族は自分の水を飲む。音を立てて啜る無礼な行動、しかしそれにカウキョは気を悪くしなかった。しかし言い分に引っかかるものを感じたのか、眉をしかめた。
「何がひどいのよ。私は早速彼の後援会を始めようかとさえ思うのよ。彼の活動を知らせる広報誌を専属の絵師と契約して出版。各家庭に一冊置くのを義務付け、必ず1日に1回は熟読する法律を可決するべく、今買収工作を進めているのよ。それでも根強く反対する輩がいることはいるから、穴を百個掘って埋めさせる作業に従事させるべく裁判官達に工作をしているのよ」
「お前清廉潔白という言葉を知っているか? 常識を知っているか? 優しさというものを知っているか?」
「清廉潔白で政治なんてできないとは思わない? 常識にとらわれていたら国王なんてできないとは思わない? 優しさだけで世界を作っていけるなんて、お花畑にもほどがあると思わない?」
「……一理は認めてやる。二理は絶対認めないが」
再び水を飲むウドツカヴ。全くの無味であるはずそれが、ウドツカヴにとって苦々しいものに感じられるのはきっと気のせいではないだろう。
「相変わらずひどい言い草ね。仮にも私は国王なのよ? そんな口叩いてきたら不敬罪でとっ捕まえることもできるんだけど?」
「これは知らなかった。俺を不当な言いがかりで逮捕できるようになっていたとは。世俗に降りるとこれまでの正義がコロコロと変わるから困る」
「不当な言いがかりとは何よ。国王を馬鹿にしたのよ? そんなものは拷問の末に殺されてしかるべきじゃないかしら? 最も私は殺すのは嫌いだから、この間の奴らみたいに穴の開いたバケツで水をくみ出す作業をやらせるつもりだけれども」
「尊敬されてしかるべき国王なら俺も甘んじて罰を受けよう。しかし俺の目の前にいる女はただの老いらくの恋に狂った」
「うんそれ以上はやめましょうそれ以上は私の心に深く深く深く響く例え事実でも言っていいことと悪いことがあるのよ聡明なあなたならわかるでしょウドツカヴ」
膝を震わせて、体を全身で揺さぶっている。当然手に持った紅茶がバシャバシャと零れて、地面に跡を作っていく。目こそ閉じられているが平静は異次元に飛ばしたのだろう、汗という汗が額から噴き出ていた。
さすがに哀れさを感じたウドツカヴは再度水を飲みこみ、それと共に感情も嚥下した。
「……分かった。この件はここまでにしておこう。その代わり答えてほしいことがある」
「先に関すること以外で、私に答えられるものなら」
それを聞いて安心したのか、震えが止まった。優雅さすら感じられる動作で紅茶を再び飲む。変わり身の早さに幾分呆れながらも、ウドツカヴは人差し指をカウキョに向ける。
「聞きたいこと1つ目、あれは一体なんだ?」
「あれって?」
心底分からなかったのか、きょとんとした顔つきで首をかしげるカウキョ。年を考えろよ、と内心で呟きながらウドツカヴは続けた。
「国民のことだ。反乱を鎮めた割に全然盛り上がっていないな。通常祝い事でも企画しそうなものだが、何かしたのか?」
「ああ、あれ。私のとある独裁発動でそうなったの。大丈夫よ、一月でも経てば国民から感謝の言葉が雨あられと降ってくるから。この暗さはいわば必要経費よ」
「……そうか」
肯定していいやら否定していいのやら、聞いたことだけは確かであるため、無難な返事を渡した。
ともあれ次の議題に移るべく、親指を立てて話し始めた。
「聞きたいこと2つ目。何故俺を呼び出した? まさかこうして俺とお茶会するために呼んだのではあるまい?」
「あなたの言葉をそのまま返すようで悪いけど、それには2つあるの」
飲んでいた紅茶を下ろしてしっかりとした瞳で見つめるカウキョ。その視線、先にヴァンも驚かされた強い意志を込められた国王としての目。
「ウドツカヴ、あなたはヴァルハラント学校に行くべきなの。そして会うべき、いえ、会わなければならないの。ヴァン・グランハウンドくんに」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます