7-⑪ 失礼に対するお詫びとして今日から3日間は祝日にするわね
(落ち着け……まず状況を確認しよう。当初の計画ではここで俺は国王と会談。適当に話を合わせておいて、途中で国王を誘拐。そのための脱出路は緊急避難時に使われているであろう道、ステンドグラスの向こうにある避難路に行く。その後に身を預かったことと悪として宣言。俺の存在を世界に轟かせる予定だった。予定、だったんだよな……)
そう思い出しながら改めてヴァンは今を見る。現状を眼に映す。
(俺……国王と謁見に来たんだよな……? 緊張するの俺だよな……? なら何故この人は落ちつきを失くしているのだろう……? 何故全身を振るわせているのだろう……?)
ヴァンの見ている光景に脚色は無かった。
ヴァンが座っているのと同じ椅子に腰かけているカウキョ。2人の間にテーブルがあり、その上に豪華な紅茶のセットとカップが置かれている。恐らくヴァンにしてみても一生に一度あるかないかの絢爛なものであるのだが、全く注目していなかった。
それよりも今極限なまでの貧乏ゆすり、足が隠れるウエディングドレスを着ていても分かるほどに激しい、を行っているカウキョが気になっていた。さらに不自然なまでに瞬きを繰り返し、所在なさげに指をワキワキとさせている。不敬罪で逮捕される恐れもあるから言えないが、挙動不審にもほどがある。
「先程は失礼したわね。お見苦しいところをお見せしたわ。でももう大丈夫。少し落ち着いてきたから」
「はあ……」
(今震えのあまりウエディングドレスをシミだらけにしているのに、『少し落ち着いてきた』んだろうか)
気を落ち着かせるためなのか、それともあまり乾いた喉を潤すために取ったのか、それは分からなかった。だが体の震えによって、手にした紅茶がこぼれていっているのが現状。当然いくつも純白なウエディングドレスにシミとなって残った。
「正直に言うとね、今の私は冷静でないのよ。何故なら私はあなたの愛好者なのよ。それも熱烈な」
「はあ……」
「今もこうしてあなたの目の前にいると思うと体中の穴という穴から血液が噴出しそうなの。事実一部からはもう出ているくらいだし。だから今透明化の特殊魔法を使って点滴を隠して輸血を絶えず行っているところなの。そうでもしないと貧血でぶっ倒れてしまうから」
(何故それを暴露した。しなければ俺が気付くはずもないんだが)
カウキョの語る言葉に嘘はないのだろう。空中に向かってカップを持ってない手で軽く叩く仕草をすると、金属を叩くような音が聞こえてきた。
「ちなみに妹夫婦もあなたが好きなのよ。あなたが列車に乗ってくると分かっていた。だから夫婦旅行の偶然を装ってあなたの善行を目撃してきたらしいのよ。妬ましくはないわよ? えん罪仕立て上げて100時間ぶっ通しで水に打たせて寝かせないくらいしか恨んでないから」
(怖いわ! 姉妹揃ってストーカー気質とか勘弁してくれ! というかそれ拷問だろ!)
その考えが遂に隠せなかったのか、それとも察してしまったのか、カウキョの表情が微妙に変化する。さすがに言い過ぎたと反省している様だ。
「申し訳ないわね。普段の私はこのようではないの。もっと公明でいて寛大。それでいて偉大な人族であるともっぱらの評判なの」
(現状でそれを信じろというのは無理だと思うんだが)
相手が相手でなければ即突っ込みを入れていたのだが、さすがに国王相手ではそれも失礼に当たるのではないか、そう思ったため控えることにした。そんなヴァンの心中を気付くはずもなく、紅茶を飲んだ。最も零れすぎて中身はほとんど残っていなかったが。
(ともあれ落ち着こう……落ち着くんだ俺。もしかしてのもしかしたらだが、あえて混乱させて俺をはかろうとしているのかもしれない。あえて部下が怒らせる言動、態度をとることで君主の器を確かめるという話を聞いたことがある。それの改編した方法で、この人も同じく俺をはかろうとしているのかもしれない。となるとここは雄弁になることこそ、相手の思惑! 沈黙を守るべきだ……!)
ヴァンが心の中に誓いを立てたとき、ちょうど紅茶のカップをカウキョはテーブルに置いた。
「とりあえず失礼に対するお詫びとして今日から3日間は祝日にするわね。名前は『尊い日』、『すごく尊い日』、『最高に尊い日』」
「どこをどうしてそういうお詫びが出てくるのでしょうか」
そしてその誓いは即破られた。だが色んな気持ちを抑えて丁寧語で、常識的な突っ込みをしただけヴァンを褒めてやるべきかもしれない。
「うっかりしてたわ。そうよね。祝日にはお祭りを一緒にしないといけなかったわね」
「ちっとも分かってませんよね?」
「どうしようかしら……お祭りなら対象物や神に感謝を表す必要があるわね。各自の家にあなたの肖像画を配布してそれを一日中眺めさせるか。全ての人魔にあなたの家に来て感謝の念を述べるようにするか。いずれにしても法律を制定するべきね」
「これほど喜びの無い祭りもないでしょうね」
ここでカウキョは何かに気付いたように、手で顔を覆った。
「今日は最高に調子が最悪みたいね。祭りには必要不可欠なお供え物を忘れていたなんて。手っ取り早くその人魔が持つ全財産でいいわね。それを破った場合は砂漠の砂粒数えるということで。当然全粒数えるまで解放はなし」
「さっきから私の話聞いてます? ねえ、聞いてます?」
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