7-⑥ 誰か助けてくれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

「それじゃ一体どこを突っ込めというんですか? あれですか? バニラアイスを注文したところですか? せんぱいはバニラアイスではなくチョコアイスの方が好き派なんですか? あたし、チョコアイスも好きですよ?」

「……うん、分かった。ミリア、まずはこの遊びをやり切ろう。さあくじ引こうか」

 最早全てを諦観したかったグレイだったが、それでもここまで来たのだ。やりきろうという思いと共にカバンをミリアに渡した。

 疑問符は浮かべていたが、グレイの言う通りにしてミリアは封筒を取り出した。


「えーとですね、『欲しいものは無い。無理して買ってこなくていい。その代わり頼むから俺の代わりに突っ込みを負担してくれ』」

「キバット……」

 多分に同情を含んだ声で答えたのはグレイだった。それにミリアは親指を立てて応じた。

「正解です! せんぱいさすがですね! あの人と仲いいですもんね!」

「仲いいというか同族というか……」

「そういうのを同気相求どうきそうきゅうというのだ。覚えとけグレイ。試験で出たとき点数が稼げるぞ」

 というなり、カバンを受け取って残った2つの封筒を、ヴァンは取り出した。そしてそのうちの片方を破き、中の手紙を解放した。


「えー、『真実を見抜く目が欲しい。またはヴァン・グランハウンドが正義であるということを信じる心』だとおぉぉぉぉ!」

 語るべくもなくジウソーであるのはグレイにもミリアにも分かった。だがそれどころではない、またもやこのお遊びはどこかに行ってしまった。

 震える手でヴァンが叫び出した。

「いかん! いかんぞジウソー! 俺は悪だ! 迷いに負けてはいけない! 確かに正義とは孤独で辛いものがあるかもしれない! けれども! 光は決して闇に負けないように俺という邪悪に屈してしまってはこの世の正義はどうなる! お前が屈したら世界の行く末はどうなる!」

「はーい、次! 次行くぞ!」

 もうさせない、これ以上長引かせない。悲壮な決意をもってグレイは最後の封筒に手を伸ばそうとする。が、それをヴァンは体で止めてきた。


「やめろグレイ! 俺はジウソーに自信を与えなければならないんだ! あいつは孤独だ! 孤独故に、その信念は風前の灯の様にあと少しでかき消えてしまうのだ! それを消さないためにはどうしたらいいか! 声援だ! 声援なのだ! だから俺は今応援を送らなければならないんだ!」

「ここで声荒げていったいどれだけ効果があるってんだ! 聞こえもしないわ! ともかく次だ! これで最後だ!」

 ヴァンがあらかじめ引いていたもう1つの封筒をひったくり、グレイが読み上げ始める。最後にして最大の爆弾、キバンカの頼まれもの。そしてそれは長かった。


「『当方の欲しいものはお金で買えるものばかりです。ただし高価なものばかりで、少し申し訳ないです。買うものは睡眠剤と録画機器と山奥の離れた一軒家と長期間の保存ができる食料と麻縄と媚薬とさるぐつわと手錠と小さい女の子と』」

 読み上げていくたびグレイの言葉に怒りが塗されていく。しかしミリアは全く対照的に怒りではなく、感心を見せた。

「野営ですね! しかも子供たちを連れてってやり方を教えてあげようなんて! 素晴らしい心がけです!」

「媚薬の使い道ぃ! さるぐつわと手錠ぅ!」

「媚薬を使うことで山の動物を興奮! それをとらえて調理する、もしくは博物館や動物園への提供! 中々できることじゃないですよ!」


「『拝啓、ジウソー・オー殿。初めまして、名乗るほどのものではありません。私はあなたの正義を応援するものです。ヴァン・グランハウンドというのはこの世の中で最大の悪党であり、最も糾弾されてしかるべき存在なのです。それがこなせるのはあなただけであり、あなたが最後にして唯一の希望なのです。諦めてはいけません。辛いのは分かります。ですけど苦難を知らない英雄がいないのと同様で、あなたが感じている困難は大望を果たすための、いわば代価です。私はあなたの正義の道を応援するものであり、あなたは決して一人で戦っているわけではないことをここにはっきり書いておきます』」

 息を吐くように異次元的な解答を提出するミリア。

 ジウソーを助けるために、突っ込みどころしかない手紙を書き始めるヴァン。

 無視をすることができない男、グレイ。だからこそ、グレイが取れる手段はこれしかなかった。

「誰か助けてくれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」




 その後グレイの悲鳴を聞いた乗客が非常停止装置を押したため、車掌という救援は現れてはくれた。

「列車内で騒がないでください、停車していいことなんてないんですからね!」

 と、お灸を据えられた3人はひたすら平謝りをすることになってしまった。

 しかし、停車位置からすぐのところに爆弾が仕掛けられていることに他の車掌が気付いたため、

「よくぞ止めてくれました! そういう作戦だったんだね!」

 と逆に褒め称えられる結果を生んだため、その叱りは簡単に消し飛んでしまったが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る