7-④ もしどうしても当たり散らしたいんなら俺にしろ

 しかしこの状況を全くなかったことにすることは最早できない。

 この世には流れがあり、それを逆らおうとするものは須く流されるのだ。そして流れは、最早遊戯を行う方向で進み始めている。

 それに何より、先の凹みから復帰したミリアがキラキラとした目で今か今かと、そんな目を向けている。これを裏切れる程グレイは非情にはなれなかった。

(せめてまともな奴を引かせてくれ……変な奴を引くのは嫌だ……! キバット、バース、ジウソー辺り……! キバンカとキウホとキフドマは勘弁してくれ……!)


 グレイは無言で引き、即座に開封した。そしてその内容を見て、一瞬目を向く。

 が、それはすぐに薄い笑いに取って代わった。

「『欲しいものは無い。強いて言うなら生徒会長さん、副生徒会長さん、書記係さん3人で楽しんでくることが俺の望みだ』だとよ」

「……バースか」

「いいこと言ってくれますね! やっぱり上に立つ魔族って、それなりの将になっていくんですね! あの人は人格完成されてますよね!」

「戦闘に関しては同意しかねるがな」

 グレイの読み上げに2人は思い思いの感想を呟く。そしてそれで終わりに向かう。多くの反応を引き出した先のキバと違って平穏な空気のまま、グレイの当番は終了しようとしていた。

「よーし、それじゃミリア。次はお前の番だぞ」

 そう言うなり、グレイはバースの紙を自らのポケットに押し込んだ。

『強いて言うなら、副生徒会長さんと書記係さんの子どもの名付け親になりたいぎゃはははは!』と書かれた部分は読み上げなかった紙を。


「それじゃ次はあたしですね! んー……」

 幾度か中をかき回し、そこから1つの封筒を取り出す。そしてすぐさま封を切り、中の折りたたまれた紙を引き抜く。

「それじゃミリア・ヴァレスティン! 読み上げます! 会長! せんぱい! 当ててくださいね! さーて、誰ですかねー?」

 勢いよく紙を開き中を見て、

「!」

 その勢いを減速させることなく破った。

「あ、キウホだ」

「キウホしか無いな」


 破った紙を床に叩き付け、幾度も幾度も踏みつける。さらには燃やそうと手に火の簡易魔法まで行使しようとしてくる。それらを行うミリアの表情は険しく、悔しそうに歯を食い縛る。

 どう控えめに考えても、ミリアにとって不愉快な内容が書いてあったことが分かる。そしてそんなものを書くのはキウホ以外誰がいようか。正解を確認するまでもなかった。

 だがそんなものはどうでもよかった。それ以上に今ミリアが簡易魔法を今すぐにでも紙に向けて、細かく言えば列車の床に打とうとしていたため、ヴァンが口で制止を促した。


「ミリア、さすがに列車の中で簡易魔法は問題だ。事故につながってしまったらどうする?」

「ですけど……! ですけど!」

 抗議の言葉をつむごうとするミリア。多少鎮まったとはいえ、まだ心に怒りが燃え盛っているのは2人ともが分かった。

 そしてそんなミリアをグレイが見過ごすはずはない、ミリアの肩に手を置いてグレイは止めに入った。

「落ち着けよ。何か爆弾発言が書いてあったんだな? それで怒る気持ちはわかるけど、列車が壊れたらシャレにならん」

「ですけど! この紙には書いてあったことが……許せないんです……! どうしても……!」

「言いたいことがあるんなら俺が受け止めるし、もしどうしても当たり散らしたいんなら俺にしろ……お前からならいくらやられても気にしねえよ」

「グレイまさかのドマゾ宣言か?」

「ぶっ殺してもいいか?」


 甘い空気が漂いかけるが、それは一瞬でヴァンが霧散させた。しかし一定の効果はあったようだ、先程と比べ幾分はミリアに落ち着きが見られた。まだ顔には不満が漂っていたが

「それにしてもいったい何が書いてあったのだ……? どれ……」 

 ミリアが破った紙をつないで、内容をヴァンは確認する。

 派手に破いてはいたが、文字の部分が削られることは無かったため、つなぎ合わせればほぼすべての文章は復元できそうであった。

 そしてそれが完成したとき


『グラディウス氏の人生。代価は私の一生』


ヴァンは吹き出した。

「このセリフ! あたしがいつかせんぱいに言おうと思っていた結婚のセリフとほぼ同じなんですよ! そういってせんぱいを驚かせると同時に! 花束と指輪と子供用の揺りかごと婚姻届が置かれた家に招待しようと考えていたんですよ! それを! あたしの一生の計画を! 先にやられましたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 鎮火しかかっていた炎に油が引っ掛かってしまったらしい、先程以上に声を張り上げ、そしてミリアは泣き出した。わんわんと大粒の涙がいくつもいくつも溢れてきては床へ落ちていく。

 これでミリアが泣くのは2回目であるが、こうも違った泣き方をするのか、とどこか遠いところのできごとの様にグレイは感じていた。

「演劇の練習です、気にしないでください。本当なんです」

 とヴァンは周囲の理解を徹底することへの専念に逃げたが。

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