7ー③ すいませーん、また反面教師でーす

「こういうのってただ読み上げていくのも面白くないと思います! そこでどうでしょう? あたしのカバンに全部詰め込んで、くじ引き形式で引いて読み上げるってのどうでしょうか? それで誰が書いたのか、みんなで当てっこするっていうのは! まだ王都までは結構時間もかかりますし、その方がお遊び感覚で楽しいと思います!」


 バースや三連牙からもらったときに予め考えていたのだろう、カバンの中に入れていた小さなカバンを取り出し、その口を開ける。このカバンをクジ箱代わりに、と言いたいのだろう。

 ふむ、とヴァンは手を顎に添えて軽く唸った。

「なるほど……それはそれで面白そうだ。闇鍋的空気と簡単な試験を掛け合わせたもの。ミリア、お前中々遊びの才能があるかもしれんぞ」

「お褒めにあずかり嬉しいです! それでは早速準備します!」

 2人から受け取った紙の数々を全て小さなカバンの中に入れて、ミリアはカバンを様々に振ってかき混ぜていく。当然中の封筒はカバン内部で撹拌されて、誰が誰のものか分からなくなっていった。


 充分混ぜ込みができたと判断したのだろう、ミリアが振る手を止めてカバンをヴァンに差し出した。

「それでは早速私からいこう、どれ……」

 カバンの中に手を入れて指でそれをさらに転がすヴァン。中の封筒を見ないようにするためなのか、視線は窓の外に向け靇辺り細かな配慮が行き届いている。

「これでいこう」

 取り出した紙の封を切り、ヴァンは読み上げ始めた。

「えー、『腰まで届く長い金髪碧眼の胸がとっても大きくて引っ込むところはきちんと引っ込んでいて」

『キバ! キバ以外あり得ません!』(ありえねえ!)


 2人の完全重なった声、語尾こそ違ったものの正解と同一の答えから、ヴァンは肩をすくめた。

「バカかあいつ! そんなん王都に売ってる訳ねえだろ!」

「『王都だったら俺のこと好いてくれる髪が長くて胸の大きい女の子は必ずいるはずだ! そいつを侍らせて、グラディウス! お前に悔しい思いをさせてやるんだからな!』と追伸で書いてあるが」

「尚更バカだ! 救えねえバカだ!」

 怒りの突っ込みを入れるグレイ、これまではいつもの光景だったが、そこにミリアも絡んできた。しかも憤怒を添えて。


「ほんとですよ! 腰まで届く長い髪の毛って! そんな長い髪の毛していたらトイレでどれだけ苦労すると思っているんですか! 男のわがまま爆発しまくりです! 女性の苦労を全く分かってません!」

「何でトイレに話が進むんだよ! 違うだろ! そんなものを要求するキバがおかしいだろ!」

「せんぱいの言うことですがこれだけは同意出来ません! 考えても見てください! 髪が長い女子がトイレに座るとどうなりますか! その長い髪の毛は一体どこにつくんですか! あえて口にはしませんけど想像通りの場所ですよ! どんな種類のトイレだろうとこれを避けることは出来ません!」

「すいませーん、また反面教師でーす」

 最早ヴァンは突っ込みを入れることを放棄したのか、外に出て観客が来ないように手を打っていた。従ってここでミリアに言葉をかけることが出来るのはグレイだけになる。


「ミリア! お前根本的な部分を見誤っているんだ! これなんだ! 王都に行ったときに買ってきて欲しいものなんだぞ! そこに女性が並ぶことがおかしいだろ! そこを突っ込むべきだろ!」

「せんぱいが突っ込んでいるところに、あたしが改めて突っ込んでも意味がないですよ! せんぱいが突っ込んでいる方面とは別方向から攻めることで、さらなる追い打ちを仕掛けるべきです!」

「誰に! 何故! 意味は!」

「キバに! おろかさを分からせたいから! 女性の真実を知らせるためにです!」

 丁々発止の痴話喧嘩、とも言わない何か。

 もし分類するなら唯一無二のいちゃつきといえるだろう。誰も羨ましがらないだろうが。少なくともここに同席しているもう1人の男は全く羨望していなかった。


 ともあれさすがに見かねたヴァンが、2人の肩を叩いて間に入った。

「あー、2人とも。まだ遊びの途中だった気がするんだが、もうここで終わりにしてしまっても良いのか? まだ1人しかやってないんだぞ」

「! そうでした! すいません会長せんぱい! あたしったらつい熱くなってしまって……!」

 現状を認識したのだろう、ミリアが頭を下げながら大人しく座席に引っ込み、しおらしくなる。先ほどまでグレイとあれだけ激しい口論をしていたのがまるで嘘のようだ。


 ともあれ流れは変わった。これまでの騒がしい空気から、再びミリアが提案した遊びに興じる雰囲気へと変化した。

 だからヴァンはグレイに向けてカバンを差し出した。

 特別順番は決めたわけではない。しかしその行為から言いたいことは簡単に推察出来る。

「次はお前だぞ」

 と

「………………」

 つい先ほどまでのグレイだったら何のためらいもなく引いただろう。しかし今のグレイはそれを引けなかった。

 内心で渦巻き始めた思考、それがグレイの意志を絡め取っていた。

(簡単なお遊びだとばかり思ってたけど、これ想像以上に疲れるもんじゃないか……? キバ1人でこれだ、突っ込みどころ満載の買いたいもの通知が、後7つもあるんだぞ……? バース、キバット、キバンカ、ジウソー、キウホ、キフドマ、ケガスクワー……やばい! 大体が荒れる未来しか見えてこねえ!)

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