6-⑯ 最初に言ったよなぁ……俺の得意技……!

 グレイが文字通り身を削って戦っているとき、バースは歩いていた。

 手をぬいているわけではない、むしろこれでも急いでいる。相手にバレないためにこの戦法を取っているのだ。

(機械人形……巨大な体躯、純度の高い鋼鉄の装甲、換装による無限の戦闘方法。どれをとっても強いものばかり……)

 だが長所とはときに短所となる。

 肺呼吸を主とする陸上生物が、海中では生息できないのと同じように。

 細胞分裂による無性生殖が、一つの病気によって壊滅するように。

 見方を変えれば、利点は欠点ともなりうる。


(分厚い装甲、でかい体、立派なもんだ……だがそれ故これには絶対ついてくるものがある……それは、重量!)

 少しずつ歩いていて行き、ケガスクワーの足元に近づいていく。目指す場所は先ほど回し蹴りした場所、即ち足元。

(つまり機械人形は、重いんだ! 俺と戦っているときも、副生徒会長さんと戦っているときもほとんど動かず、ムチで打ち付けて来るだけ!)

 この考え、つい先ほどまではおぼろげな考えだったが、ある時確信に変わった。

 それは、グレイと合流した後のムチ攻撃。すり足で移動したとき。ゆっくりとした移動をしたとき。


(さっき打ってきたムチの位置を調整するときの足の動き。すり足の上に遅い……もし早く移動できるならとっくに移動してるはず! 走っていたはず! そもそも速く動けるなら、その速さで俺達を圧倒できるはず。でもそうしなかったということは……あいつは早く動くことができない! それも足をほとんど上げられないくらいに!)

 そしてそんな重さを2本の足で支えているのが現在、ならばそれが崩れたらどうなるか?

(自壊する! 必ず!)

 だからバースは狙うべき場所は、獲物は

(脚! それも一番破壊しやすいであろう、関節部分、膝だ!)

 そしてその目的地に到達する。まだケガスクワーはグレイに気を取られているのか、全くバースに気付いていなかった。

(最初に言ったよなぁ……俺の得意技……!)

 両脚を踏ん張る。まるで杭を打ち込んだかのように地面に固定する。

 腰を捻る。限界まで引き絞った弓を思わせる。

 小指、薬指、中指、人差し指を折り曲げる。それに被せる様に親指を添える。

(気に食わない奴は……)

 腕の筋肉が盛り上がる。

 筋肉鍛錬で鍛え上げたのではなく、これまでの実践を通して鍛え上げられた指の、腕の、背の筋肉が固くなっていく。

 視線を固定する。

 狙うべき敵の部位を睨みつける。

(ぶちのめす!)

 全ての準備は整った。全力全開を出す準備。

 全部、解き放つ。

 今全開にしたバースの一撃が放たれた。






 ケガスクワーが揺れた。それもこれまで感じたことのない揺れ。

 原因は目の前で戦っているグレイではないことは確かだが、全く見当がつかないため搭乗者、キフドマは慌てた。

「な、なんだ!?」

 至急画面を切り替える。

 各部に設置されたた投影機から、ケガスクワーの状況を教えてくれる。頭、体、腕、脚。各部が切り替わりながら映っていく。

 少しだけ時間がかかったが、その原因はすぐに分かった。

 足元に被害が出ている。膝裏を覆う装甲がほんの僅かながら破られている。そしてそれを行ったのは拳を突き出した、バース。

「バカな……ケガスクワーの装甲を素手で破ったというのか……?」

 信じられなかった。しかしそれなら現実はどう説明するのか、今また拳を引き、バースが第2撃を放とうとしているそれは。

「うおぉあああああああああああああああ!」

 雄たけびと共に放たれたそれが全てを物語っていた。

 再度ケガスクワーが揺れる。そして小さいながらも先の傷は拡大していた。


(まずい!)

 ケガスクワーの焦点をバースに向ける。そして攻撃用の右腕も銃口に変化させバースへ狙いを絞る。

「お前の相手はこっちだ!」

 その目に被せる様にして魔法を放ってくるグレイ。

 右腕から出した水の簡易魔法、足から出した土の簡易魔法。2つを混ぜ合わせたもの、つまりグレイはケガスクワーの目に泥をかけてきたのだ。


「小賢しい!」

「ほめ言葉ぁ!」

 左腕で視界を拭い、右腕の銃口を今度はグレイに向けるケガスクワー。

 あの液体が来る。

 と思い込んだのがグレイの運の尽きだった。それが引っ込み出現するのは、掌。

「しまった!」

 とグレイは口にしたがそれは駆動音にかき消えた。まるで飛び回る蚊を片手で仕留める様にして、グレイを捕まえ握り潰してくる。

 肉体強化を施されているため、グレイの防御力も上がってはいる。だがそれでも元々弱い彼だ、万力のようにして挟まれると体の痛覚が次々と刺激されていく。特に当然折れた左腕にもその力はかかる。

「があああああああああああああああああ!」

「せんぱい!」

「グラディウス氏!」


 2人の悲鳴とグレイの呻きが響く。

「ああああああああああああああああああ!!」

 そしてそれに負けないくらいの大声で、撃ち込まれるバースの第3撃。さらなる振動を呼び、遂に装甲の傷が誰の目からでも視認できるほど大きくなる。

「ええい!」

 飛ぶことが出来なくなったグレイを観客席目掛けて放り投げるケガスクワー。多数の椅子を破壊して、グレイはその身を転がしていく。

 その方向へ飛んでいくミリアとキウホ。それらに一切構わず第4打を打ち込むバース。もう傷はかなりの大きさになり、手こそ入らないがそこから内部の回路等が見え始める。


「いい加減に……」

 ケガスクワー右腕が変化を始める。キバットたちの体力を奪った液体を打ち出す銃の形態へと変わる。

 バースは5発目の準備を始める。

「しろ!」

 つまみを調節し、最も魔力を込めた状態の液体にする。そして迷わず引き金を引き、液体をバース目掛けてかける。

 その瞬間、バースの5発目が炸裂した。

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