6-⑬ 俺の得意技は気に食わない奴はぶちのめす!
出てきたのはキバット、キバット・ソー本人である。それが大きくも小さくもなっていない。
ただ浴びる前と浴びた後の大きな変更点、それは
下着一枚となっていることだった。
「な、な……なんだ、これ……!」
咄嗟に手で体を隠す。年頃の女性ならば悩殺できる姿勢だが、竜族の筋骨隆々とした男ではどこにも需要は無かった。
何であれ混乱した状況、地面に着いた後もキバットは焦りを隠すことは出来なかった。対照的にキフドマは高笑いをあげた。
「どうだ! このケガスクワーの右腕の威力は! この液体は服や装甲を溶かすのだ! ただし下着は溶かさないぞ! 武士の情けというやつだ!」
「お前忍者じゃねえのかよ! つうかアホかお前! 何でそんな液体作ったんだ!」
「下着だけ残った方がより羞恥心を煽れると思わない?」
「作ったのお前かよ!」
届かないと分かっていながらも突っ込みが出てしまったのはグレイの天性ゆえか。そしてグレイに絡んだキウホにしっかりと返すのもやはりグレイだからだろう。
そんなグレイとは別の方向から接近するのが、キバだったのも天性かもしれない。
「ちょっと待て! 服だけ溶かす液体だって!? ってことはそれを女子にかけたらいやーんでばかーんでうふーんな展開に!?」
「ふっ、溶かせるのは男子限定だ」
一体その宣言のどこに誇るところがあったのか、グレイは問い詰めたかったが、そんな思いを超えるほど絶望したキバの嘆きが響く。
「つっかえね! 超使えねえ! ゴミ! クズ! 産廃!」
「いや待て! キバ! 考えてみろ! その液体を女子が被った姿を! ヌトヌトネトネトした液体だぞ!? それを浴びてしまったがために下着が透ける女子の完成だぞ!? しかも体操服! ブルマ! むしろ最高じゃないか!?」
「キバンカ頭いい! 神だ!」
「てめえらいい加減にしとけ!」
キバ、キバンカの両者の襟首をつかみ、バースは放り投げた。
僅かな飛翔、その後2人の頭部がケガスクワーの脚部に直撃。鐘を鳴らす巨木の様にぶつかるが、それだけで特に被害は無かった。
それどころか先ほどキバットの服を溶かした液体の上に落ちたため、2人の服も溶けていく。
「ちくしょう効果なしか! ジウソーすら沈めたキバ矢とキバンカ矢の2連撃すら効かないなんて!」
「そんなちんけなものなど効かんよ! 鍛え上げた鋼鉄でつくられた体! やわな攻撃など効くものかよ!」
悔し気に歯を食いしばるバースにはキフドマの声は届かなかった。だが聞きなれたキバットの声は届いた。
「バースさん……気を付けてください……」
先ほどとは違い、キバットはもう腕で体を隠してはいない。
今は倒れようとする体を何とか支えようと、腕を床について四つ足の獣と同じ状態を取っている。
「恐らくこの液体、何かあります……さっきから立ち上がりたくても立ち上がれなくて……まるで力が入らない……」
「……ヌトヌトネトネトに塗れて抵抗できない女子……だと……」
「最っ高……! こいつ量産体制できないかな……」
バースに助言するキバット。
妄想に浸るキバンカとキバ。
同じ部下で何故差がついたか。それをすごく問い詰めたい気分になったが、そんな状況ではない。バースが足を踏み鳴らした。
「よく教えてくれたキバット、後で何か奢ってやるぞ。キバとキバンカはこいつとの闘いで盾と矢の刑な」
何故ですかぁぁ! という叫びは完全無視した。
手を解し、足の筋肉を飛び跳ねることで、バースは激しい運動の準備をし始める。
「一応教えておいてやろう。これぞケガスクワーの隠された効果。この液体は魔力が練りこまれており、浴びたものの体力を奪う仕組みになっているのだ!」
「ご丁寧にそいつはどうも。だったら俺も俺の能力を教えてやらなきゃな。俺の得意技は気に食わない奴はぶちのめす! よーく覚えて対策を練るんだな!」
「はっ、それを技と語るのか、バカか貴様!」
「だよなぁ、技に見えないよな? バカ言ってる様に見えるよなぁ? でも残念ではないよなぁ? お前と違って!」
一本取られたことが、それも自分が最も取られたくない方向での取られ方をするとどうなるか、怒りを呼び起こす結果となるのだ。
当然キフドマも例外ではない、額を始めとした各地の血管が浮かび上がってくる。
口論で一本取ったことが嬉しくてたまらないのだろう、バースは一気に笑みを深め、腰を落として構える。
よほど頭に来たのだろう、大きく左腕のムチをしならせるケガスクワー。それに比例し、醸し出す音はキバットと戦った時よりも大きい。
「来やがれ! ポンコツ機械とインチキ忍者! この間の借りごとぶっ飛ばしてやるぜ!」
ここに生徒会最強対裏生徒会最強の試合は開始された。
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