6-⑫ 本命はこれなんだよ!
最早後戻りはできない。賽は投げられたのだ。ヴァンも腹をくくり、魔力変換意志洗脳機の起動させることとした。
名前を読み上げ命令を下す、単純な動作であったが内心の迷いが振りきれず多少ためらった。
「と、ともあれやるか! キフドマ・キフ「下がってな皆! こういう荒事の時こそ俺たちの出番だ! 生徒会直属武力集団に任せろ! 皆は全員外に出るんだ!」」
これまでのんきに遠くから見ていた生徒達もさすがの機械人形に驚きを隠せなかった。どよめき、慌て、喧騒がそこかしこで起き、軽い恐慌状態となろうとしていた。
しかしそんな彼らをまとめることが出来たのはやはりバース、一喝でそれを鎮圧させる。
「生徒会長さん、悪いけど皆の避難と脱出路の確保を頼む! ここは俺達に任せろ!」
「……任された!」
命令は後でもできる、それに不確定要素になりかねない群衆を避難させるのは悪い話ではない。ヴァンはこう判断したため、景気良い返事を返した。
そして素早く体育館と校舎をつなぐドアの前に立ち、人々の誘導を行っていく。
それを満足そうに見届けてバースはケガスクワーに向き直った。
ケガスクワーは何もしていない。ただただ突っ立ったまま。ゆとりすら感じさせるそれは、バースにはからかいと映ったのだろう、指を数度鳴らし飛び掛かろうとする。
「バースさん、ここは俺にやらせてください」
が、それは横からかけられたキバットの一声で止まった。意気をくじかれた苛立ちにも似た感情を持ったが、それもキバットの解説を聞くと引っ込み始めた。
「機械人形と言えば兵器とさえ使用できるもの。どんな力を持っているか分かったものじゃないです。ここは俺がまず挑んで様子を見ます。バースさんはその間に作戦を練ってください」
キバットの言うことは間違いではない。
機械人形が兵器として採用されているのは様々な利点があるのだが、その中で最も大きいのは両腕の換装が容易いということだ。
常設されているのは普通の腕なのだが、これを変化することで戦術が無限に変化する。
例えば銃にすることで遠距離戦を、刃物にすることで近距離戦を、異色なところではドリルに変えることで掘削工事用として使っているところもある。部品によっては無限とさえいる種類の攻撃方法を行うことが出来るのだ。
それ故今ただの腕に見えるケガスクワーがいかなる戦法を用いてくるのか、その情報はバースにしてみるとかなり欲しい情報であるのは確かだった。
「分かった……キバット、頼むぜ」
「お安い御用です」
バースに肩を叩かれキバットが数歩前に出てくる。それが挑戦者としての名乗り、と解釈したのだろう。ここで初めてケガスクワーの目が動き、キバットに照準をつける。
「……舐められたものだな。たった一人で私に挑む気か」
拡声機越しに聞こえるキフドマの声は威厳を持ち、大物さを感じさせる。先のキウホとのやり取りがなければ、それはより輝いただろう。
「情報収集は必要だろう?」
「なるほど……それならたっぷり開示してやろう!」
ケガスクワーの左腕の一部が変化する。掌が引っ込み、中から革製のムチが飛び出してくる。
その長さ、ケガスクワーの全身とほぼ等しいくらい。収納空間に見合わないが、恐らく上級魔法を刻み込むことで異次元へとつないでいるのだろう。
「知っているか……上級者が扱うムチはその気になれば金属ですら切断することが出来るのだと……さてそこで質問だ、お前の肌は金属以上かな?」
僅かながら左腕を動かし、ムチを振りかぶる。それにより左腕の鞭がしなり、地面に叩きつけられる。
パァン!
破裂音が床に響き渡る。軽い動作でしかないのに体育館全てに響く音。それが激突したら、背筋に寒いものをキバットは感じた。
「試してやろう!」
ムチの先端が跳ねあがり、上空から降ってこようとする。先と同じ、ムチの基本的攻撃。その巨大な様子からまるで怪獣の尾を思わせる。
(だがそれ故かわせないことは無い!)
動作は大仰、そして振り下ろすために攻撃範囲は限定。横に飛べばあっさり回避できる。
だからキバットは跳んでそれをかわした。
だがケガスクワーの単眼はその軌道を逃さなかった。
「かかった!」
右腕が変化してそこから銃が飛び出てくる。そしてそれの狙いをキバットに向ける。
「本命はこれなんだよ!」
(銃だと!?)
空中にいるため、軌道変更はできない。避けることは不可能。
「くっ!」
無駄とは感じつつも両腕を交差させ、防御の態勢を作るキバット。簡易魔法も展開するが、いざ打たれたら紙切れ同然に引き裂かれるだろう。
「殺す気かよ!?」
バースの叫びが体育館内の空気を揺さぶった。
それと同時、堰を切ったように銃から噴出される弾丸
ではなく濁った液体。
それがキバットの体を包み込む。
「な、なんだ!?」
時間にしてそれは1秒にもならない短い時間。キバットを覆った液体が重力法則に従い落下したとき、あるものが見えてきた。
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