6-⑪ 汝その名は、ケガスクワー!
「ええい、お前と絡んでる暇はない! ……っつー……! 俺は、生徒会を倒しに来たんだ!」
いい加減嫌になったのだろう。足を踏み鳴らし、その瞬間痛みからか言葉に詰まったが、キフドマは雰囲気を一変させようと奮闘し始める。
「ヴァン・グランハウンド! お前に宣戦布告する! 倒れてしまったジウソー殿の遺志を継ぎ、悪の総統であるお前を討つ!」
「……それはどうも」
指を突きつけ、悪として糾弾される。あれほど待ち望んでいた状態、セリフ、構図。しかしそれらすべてを覆い上回るほどあまりの残念っぷりに、ヴァンですら呆れの世界に入っていた。
「生徒会長さんに挑戦とは威勢がいいな。でもよ、物事には順序ってやつがあると思わないか?」
複数の靴音と共に姿を現したのはバースと三連牙。いつのまに脱いでいたのか、バースはかつてヴァンと戦闘したときと同じ格好になっていた。
遠回しながらすぐにでも戦えるというバースの伝言、それがキフドマを余裕に結び付けた。
「バースとそのおまけ達か……なるほど、確かに生徒会長という砂糖にたどり着くためには、付きまとう蟻を振り払わねばなるまい」
完全なる煽りであったが、三連牙は冷静ではあった。怒りが全くないわけではないが、少なくとも言い返すくらいには落ち着いていた。
「いいのかな、そんな風に馬鹿にしていて」
「おうよ、もしそのおまけに負けたら、お前最高にかっこ悪いぜ!」
「数の上では4対1。お前に勝機は無いぞ」
口々に言ってくる三連牙だが、その言葉に脚色は無い。
武闘派である不良集団の中でも頂点集団である三連牙、そしてバース。この4人にかかられては誰も勝てるものはいない。恐らく教師陣も、ヴァンですら勝てないだろう。
だが、それでもキフドマは全く狼狽の対局にいた。
目元以外見ることは敵わないが声色が、肩のゆすりがそれを表現していた。
「1人ではないさ。俺には強い味方がいる……最後の四天王。それがいる限り、お前たちになど負けん」
「ほう……いくら探しても分からなかった最後の裏生徒会四天王。そいつも来んのか。いいぜ、連れて来いよ。そいつもまとめてぶっ飛ばしてやるよ」
「連れて来る? はっ、できるわけないだろう。俺が持ち運べるものではないのだから! 呼べばどこでも来るあれを持ち運ぶ理由などない!」
挑発するバース、嘲るキフドマ。この舌の争いで先に感情を動かされたのはバースだった。怪訝さをにじませた顔で訊いた。
「持ち運ぶ……? どういうこった?」
「聞きたいか? ならば教えてやろう……ただし言葉ではなく、行動でだ!」
キフドマは右腕を天に向かって伸ばした。
その指は中指と親指を合わせて、小指と薬指を折りたたんだ、人差し指だけを伸ばした形、いわゆる指パッチンの態勢だ。
「現れろ! 四天王最後にして最強の使者よ! 鋼鉄の巨体を唸らせ、世界にお前の存在を轟かせ! 汝その名は、ケガスクワー!」
甲高く、キフドマは指を鳴らす。
同時、体育館の屋根を突き破って何かが現れる。長身であるバースの5倍近くある信じる体長を持つもの、まさに巨人としか形容しようがないものが。
巨人と違うのはその表面と顔だ。表面を覆うのは肌や毛ではなく、青く塗装された鋼鉄。体の中を流れるのは血液ではなく、可燃性の高い赤い燃料。顔面はどこかしゃれこうべを彷彿とさせる顔をしていた。
(機械人形……! なるほど、確かに『1人』ではないな! 機械は『1体』であるからな……しかしこれなら意志は無い! 洗脳機を当てるべきはキフドマか! ……キフドマ、ねえ……)
果たして大丈夫なのか、そんな不安の火がヴァンの心中に灯る。
これまでの印象のキフドマだったら迷わずヴァンは当てただろう、しかし今はどうなのか? 冷静な爆破犯から、残念忍者へと変貌を遂げたキフドマは悪事を行うことが出来るのか?
(不可能ではないだろう……不可能では。しかしテストの点数が0点ではないからといって3点や6点を褒めることが出来ないのと同じように、この残念くんに俺の魔王化計画を託してもよいのか? むしろ何か大混乱の末にとんでもない結末に行ってしまうんじゃ?)
だが、とヴァンは思った。
(しかし機械人形という軍隊にさえ採用されている兵器! 搭載武器にもよるが破壊力は抜群の場合もある! ここの体育館などもあっさりと破壊できるだろう! 俺の『破壊せよ』の命令をこなすのにこれ以上の逸材は無いのも事実……!)
天びんが揺らす。『実行する』か『実行しないか』。
考えていけばいくらでも要素は浮かんでくる。やるべき理由、やらない方がいい理屈。しかし下せる決断は1つ。
(!)
ここにきて、ヴァンは遂に決断した。選んだ未来は『実行する』。
だからこそヴァンは魔力意志洗脳機をキフドマに弾き飛ばした。ケガスクワーに誰しもが注目していたので、それに気付いたのは誰もいなかった。
そして洗脳機は着弾、拡散し魔力がキフドマに浸透する。
(我が策! なったけど……なったけど……! 大丈夫かなあ?)
ヴァンが苦悩したとき、キフドマは跳躍、そしてケガスクワーの内部に取り込まれるかのようにして乗り込んだ。
搭乗者の確認、起動準備完了、戦闘態勢への移行。それらを外部に伝えるためなのか、ケガスクワーの目に光りが宿った。
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