6-⑥ つまりブルマは下着なんです!

 内心では思考の嵐が荒れていた。

 木々を抜き、雨を叩きつけ、建物を吹き飛ばす、暴風雨が。しかしそれとは対称的に口は全く凪いだ状態、完全沈黙を保っていた。

 そして沈黙は多彩な解釈をもたらす、玉虫色の回答と同義でもある。ミリアはこの静寂を否と取った。

「やっぱりお嫌いじゃないんですね! 分かりました! 今から学生寮行ってきます! そしてせんぱいの前で着替えます!」

「……いや、待て! 頼むからちょっと待ってくれミリア!」


 グレイの静止を振り切って駆け出すミリア。

 が、それはすぐに止まった。

 グレイの言い付けを守ったのか? そうではなかった、何故ならミリアは悲しみを浮かべつつ、振り向きいてきたからだ。そして即、頭を下げてきた。


「すいませんせんぱい! 今思い出したんですけど、この間の学生寮大崩壊でブルマはまだ埋まったままでした! あたし、ブルマ履けません!」

「あー……そいつは災難だったな。まあ、無いものを創出するのは不可能だし、ここは諦めるとしよう」

 内心残念に思う気持ちも無くはないが、それでも面倒な騒動に発展しなかったためグレイはほっとしていた。

 だが頭を元に戻したミリアの目に絶望は無かった。それどころか燃える意志が宿っているのも確認できた。


「だからせんぱい! 今からあたしジャージの下を脱ぎますね! 下を下着1枚にするので、これをブルマの代わりとしてください!」

「お前は何を言ってるんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 あまりにもかっとんだボケに、グレイにしても簡素にして万能な突っ込みしか返せなかった。

 最もミリアにしてみるとそれは不満ではあったようだ。唇を尖らせて

「理論理屈理由だった上での考えです! せんぱいも考えてくださいよ! ブルマと下着の形ってほぼ同じなんですよ! 露出する部分も同じ! 違いなんてたかだか布1枚あるかないかです! つまりブルマは下着なんです! だからこのミリア・ヴァレスティン! せんぱいのために文字通り脱ぎます!」

「ここは学校だ! そういうこと叫ぶ場と違うわ!」

 ならば一体何処なら叫んでよいのか、10文字以内で述べよ。


 という主旨のことをヴァンがいたら突っ込んでいただろう。しかし現在はまだ体育館で試合の指揮を取っていたため合いの手は無い。ゆえに2人の議論は進む。

「だったらあたしはどうしたらいいんですか! 罰を受けたいのに受けることもできないなんて! このまま汚名を、罪を被ったまま一生を過ごさないといけないんですか!? そんなの嫌です! せんぱいの横に立つものとしてあたしは相応しい存在になりたいです!」

「まずその発想から変えろ! 俺はお前に罰なんか受けて欲しくねえっての!」

「そうよ、それに脱ぐのが罰にはならないわ。罰とは即ち苦痛を受けること。それでありながら彼が喜ぶということを含みつつ考えると、縄であなたを縛ったうえでの鞭で叩くのが罰に当たるのではなくて?」

 ぎょっとした表情で2人が向いた先にいたもの、幽霊型魔族、先日あまりいい思い出をグレイにもミリアにも植え付けなった者、キウホ・リトリッチがそこにいた。


「いつからそこに……!」

「最初からいたわよ。あなたのベッドの下に。未来の紳士候補、グラディウス氏がやられたと聞いたから、慰労しようと思って復活するまで待ってたのよ」

 懇切丁寧な説明にした後、あからさまなため息をつくキウホ。その長さは自分が待たされたことへの抗議であった。

「気が付いたと思って話しかけようとしたらセイクリッド氏が、次いでニコイチならぬサンコイチ集団、そして今ヴァレスティン氏……順番は守るという礼節は保っていたつもりだけれどもそれも限界……いい加減私に話をさせなさい!」

 指を突きつけ、キウホは声高に主張してきた。


「それに加えてあなた達の議論……さっきから聞いてたけど、本当に不毛の一語に尽きる内容ね。もう少し実りのある話をしたらどうなの?」

「お前がそれ言うか!? この間仕掛けてきた議論、有意義から並行世界の壁くらい離れてると思うんだけど!?」

「それはあなたの勘違いね、私の考えはいつだってこの世の中の真理を暴き立てる、神々の領域にすら到達しているものなのよ。あなたの言う壁なんて簡単に崩せるわ」

「そういうこと話してると違うだろ! 俺が言ってるのは、お前はまるで頓珍漢な話しかしてないってことなんだ!」


 血管を浮き立たせるくらい吠えるグレイ。全く顔色を変えてないキウホ。

 そしてそんな2人の間に割り込むミリア。

「せんぱい、あたしを無視しないでください! せんぱいともっともっとお話ししたいです! せんぱいが倒れたと聞いて本当に不安だったんです! あたし、せんぱいと……せんぱいともっと触れ合いたいです!」

「無視はよくないわね。私の相手をしつつその子の相手をしなさい。もちろん一切無視は無しで」

「突っ込み急募! 交通費あり残業なし各種手当もつけるから誰か突っ込み助けて!」

 許容範囲を突破してしまったグレイは遂に救援を求めた。最もそこにいたのはキウホとミリアだけだったので、その訴えは虚空に消えてしまったが。

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