6-⑤ 早速ブルマを履いてせんぱいの前に参上しますね!

「まず私の名前! 名字、名前込みでお願いします!」

 変な質問が来るか。と構えていたがそれが杞憂に終わり、グレイは内心ほっとした。

 さすがに最初の最初だからか、簡単な質問で来てくれたその気遣いに薄く笑った。

「そりゃ簡単だ。ミリアだ、ミリア・ヴァレスティン」

「違いますよ!」

 が、それは勘違いだったようだ。

「へっ?」


「あたしの名前はミリア・グラディウスです! 昨日せんぱいからプロポーズを受けてそう改名したじゃないですか!」

「知らん知らん知らん! 何だそりゃ!」


「そんな! あんなに熱く愛してくれたじゃないですか! 真夜中窓をそっと叩く音が聞こえて『誰ですか?』『お節介な愛のキューピッドさ』って言ってせんぱいが窓から入ってきて、『ここから愛の叫びが聞こえたもんでね。ついつい世話を焼こうと思っちまった』『あたしは何も叫んでないですよ?』『いいや、言ってるよ』と答えたと思ったら『ほら、心臓こころが言ってる』って言って抱きしめてくれたじゃないですか! あたしははっと飛び起きたときせんぱいは見当たりませんでしたが! いつの間にか寝間着着てましたけど! ベッドで寝てましたけど! そういうことしてくれたじゃないですか! やっぱり今のせんぱいは記憶喪失にかかってるんですよ!」

「そりゃ夢って言うんだよミリア! しかも一言も結婚申し込んでねえ!」


「だったらそれを現実にしましょう! 今せんぱいから同じことをしてくれれば、愛の言葉を言ってもらえればそれが現実になり、あたしは晴れてミリア・グラディウスになれます!」

「俺の記憶力確認はどこに行ったんだよ!」

 まさかのっけから飛ばしてくるとは思わなかった。しかもどこから突っ込みを入れればいいのか混乱するくらい。よってグレイの顔は険しくなっていく。

 そんなグレイと対を成すように、ミリアは感激を表すように胸の前で手を合わせる。


「良かった! やっぱりせんぱいはせんぱいのままでした! ここまであたしに合わせてくれるなんて! あたしに突っ込んでくれるなんて! あたし本当に感激です!」

「……ミリア、もしかしてお前、謀ったのか?」

 一瞬言っていることがわからず、目を丸くするグレイ。そんなグレイの反応が嬉しかったのか、ミリアはそのままの気分で続けた。

「はい! ただ普通に質問するんじゃ面白くないでしょうから、あえて突っ込みやすくするためにボケてみました! 通常のせんぱいだったらきちんと返してくれるだろうと思いましたから! でもでも! その夢を見たのは本当です!」

 普段のミリアの言動に完全に乗せられた。

 それに気付いたとき、思わず顔が引きつった。そしてそれには目ざとく気付いたミリアは、途端にオロオロと態度を豹変させた。

「も、もしかして嫌でしたか? すいません! あたしはせんぱいに退屈な思いをして欲しくなくて……懸賞についてくる問題を解く感覚で答えてほしいなって思って……」


 懸賞でそんな問題出てきたら、誰も答えられず訴えられると思うんだけど。という突っ込みはのど元まで得てきたが、一応控えた。

 悪気はあったわけではないし、それに厄介な方向に転びかけた事態が自然と片付いたのだ。それならばそれでよしとグレイは考えたからだ。

 だが犯罪とはときとして、被害者が事態を軽く受け止め、加害者が重く受け止めることもある。そしてそれは今だった。ミリアは手を握り、力説し始めた。


「分かりました! あたしは今先輩を傷付けてしまいました! その罰は受けます! 早速ブルマを履いてせんぱいの前に参上しますね!」

「罰とブルマの因果関係がどこにあるってんだ! お前混乱してるな!」

「あたしは落ち着いてます! 冷静な判断から、せんぱいが喜びつつもあたしが恥と苦痛を覚える方法を模索した結果! この考えに至った訳です!」

「そもそも俺はお前が苦しむ姿なんか見たくねえ! だから罰も受ける必要はねえ!」

 かなり恥を捨てた告白であったが、熱が入りすぎているミリアの頭に残らなかった。

「せんぱい! あたしはブルマが好きじゃないんです! 足は丸出しで寒いし! 最低限の面積の布しかないから下着も見えてしまうんじゃないか不安だし! 何より脚の毛の処理が甘ければ恥さらしもいいところだし!」

 最後の生々しい情報で一瞬グレイは何を返すべきか迷う。それゆえミリアを遮るものはない。独演会は続いていく。


「だからあたしにとってブルマを履くのはとても嫌なんです! でもブルマってすごく男の人に人気あるじゃないですか! 気持ちは分かりますよ! あたしだってせんぱいの生足が見れたら、膝枕して欲しいとか思いますもん! もしそれでせんぱいがあたしの耳かきとかしてくれたら! 日向ぼっこしながらせんぱいの足で眠ることが出来たら! その瞬間あたしは言います! 楽園はここにあるって! だからあたしが履くことでせんぱいに喜んで欲しいんです! それとももしかしてブルマお嫌いでしたか!?」


 突然の伺い。1つの質問を考える間に最早話は次の議題に移っている。ミリア特有のしゃべり方に慣れていたグレイですら、これには結構困った。

(いや、そりゃ嫌いじゃねえよ俺だって。着てくれたら嬉しいさ。たぶん、いや、すごく色っぽいと思う……思う、けど、だからといって頼んでいいか? というと話は違うだろう? というかそもそもの話は、ミリアが罰を受ける受けないの話から何でこういう話になってんだ?)

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