6-④ その傷心は彼女が慰めてくれるさ
「はいはいはい、お前らその辺にしとくぞ。俺達には仕事があるんだぞー」
さすがにこれ以上の看過は出来ぬと判断したのか、それとも十分漫才を堪能したのか、バースが手を叩きながら近づいてくる。
「この交流運動大会の警備、俺達の役目なんだから。油売る時間はおしまいだー。見回り再開するぞー」
「でもバースさん! こいつは!」
「はーい、強制連行ー。キバットー汚名をそそげー」
何事か喚こうとするキバを完全無視し、キバットに命令するバース。
バースの命令であるから、キバットはきびきびと動き2人を階段の方へ連れていく。
キバとキバンカは反対に人形の様に動かなくなってしまう、しかし口だけは元気に動いた。
「キバット! 離せ! 俺はこいつに! 副生徒会長にその女魔族の特徴を聞かなきゃいけないんだ! 美人なのか! 体はどうなのか! 腕っぷしが自慢の隠し事をすることのない男は好きかどうなのかを!」
「キバ、発想を変えるべきだ。あいつがハーレムを建設する。これはもはや避けようがない流れ、しかし所詮は1人の人、そうなると恋の勝負を諦める女も出てくる。その時こそ好機! 傷心した彼女を助けることで、慰めることで一気に好感度を急上昇させてだな……」
「お前ら頼むから黙っててくれ……! これ以上事態をややこしくするんじゃない……!」
うるさい2人を引き連れて、キバットは階段を下りていく。姿が見えなくなってもまだ2種類の声が聞こえてくるのは止まらない。
たっぷり1分以上を要した後、やっと静かになった。
「すまねえな、副会長さん。あいつらの相手はやりにくかったろ?」
「自覚あるなら俺に頼むという手法は取らないでほしかったんだけど。ていうかお前の一声で解決してる辺り、俺いらなかったんじゃないか?」
多分に抗議を込めたグレイだったが、バースはそれがむしろおかしかったのか大笑を返した。
「確かに解決することだけなら俺の一声でできたけど、それ以上にあんたのやり取りが見たくてな。馬鹿馬鹿しくてほんと楽しかったわー」
さらに何事か異議を唱えようとするグレイだったが、バースはそれを遮るように肩を1つ叩く。そしてある点を指さす。
「ま、悪いとは思ってるよ。その傷心は彼女が慰めてくれるさ。じっくり話し合いな」
つられて向けた視線の先、キバットたちが向かった方向とは違う方向。校舎と体育館をつなぐ渡り廊下。
「………………」
そこから見ていた。体の半分を隠しつつ、顔を半分だけのぞかせ、じっとこちらを見ているのは、ミリア。僅かに見える顔からも心配さが伝わる
「健気だねえ。お前さんが話しているのを邪魔しないために、ずっと見てくれていたみたいだぜ? その分たっぷり話してやんな。しばらく誰も来ないだろうし、来たとしても俺らが止めておいてやるよ。ま、さすがに節度は持ってほしいがな」
「おい!」
かかか、と笑ってバースはキバットたちが向かった方へ歩を進めていった。完全にバースの姿が見えなくなった、それが確認されたときミリアはそこから飛び出してきた。
「せんぱい! もう大丈夫なんですか!」
駆け足で近寄ってくるミリア。その姿は先ほどキバ達が言っていたようなブルマ姿、ではない。色気も露出もほとんど無い上下赤のジャージ姿である。
とはいえ、普段と違う格好をしているというズレはある種の力を持つ。それはグレイにも有効であり、一瞬だが返事が遅れた。
「……心配かけたみてえだな。まあ何とか平気だ」
「でも頭をしこたま打ったんですよ! もしかしたら何らかのケガや記憶障害が起きてるかもしれないじゃないですか!」
「……それは、あるかもしれんな」
ミリアの言ってることにある程度の正しさを見出したから、やや肯定よりの返事を出したグレイ。それがミリアの心を勢いづかせ、行動へと結びつける。
「ですよね! でしたら今から簡単な質問をします! それに答えてください! それでせんぱいが健康かどうか調べましょう!」
ミリアの提案に思わず頷いてしまうグレイだったが、すぐに後悔した。意地悪な質問をするというのは考えにくかったが、とんでもない質問が来ることを考えられたからだ。
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