6-② 最高だ! 彼女にしたい! 結婚したい!
そしてそれは2分で終わった。少なくともグレイにはそうだった。
グレイが意識を取り戻してから最初に認識したのは白い天井だった。見覚えがなく、そもそもなぜ自分がここにいるのか、それすら理解できない。
そんなグレイの視線を遮るものが出てきた。
見覚えがある獣人の顔。直接交流こそ無いが何度となく顔を合わせてきた男。
バース・セイクリッド。その男がグレイを見て、にっと笑いを形作る。
「お、どうやら気が付いたみてえだな?」
「セイクリッド……俺は一体……」
「大変だったぜ? 交流運動大会の第一試合で、あんた頭から落っこったからな。一応簡易魔法で治療したとはいえ、まだ安静にしてた方がいいぜ」
バースの語りが少しずつグレイの記憶を取り戻してきた。
試合の規則解説の後、第一試合が始まった。一番手はグレイ。対するは1年最強にして剣技に関してはバース以上と噂されている魔族の神童。
グレイにしてみると
「何にも聞いてねえぞ!」
「勝てるわけねえじゃねえか!」
と抗議しまくったがヴァンはのらりくらりとかわした。それに加えて先の演説で試合進行が遅れているという引け目から、結局グレイは試合を承知した。
「それでは両者、戦いの前の礼を」
グレイは剣先を突き出し構える。試合開始前の礼儀であったから行ったものなのだが。
『ああ!!』
咄嗟に叫びをあげる1年の面々。
その瞬間グレイは空高く舞った。飛翔距離は初めてのヴァンとの邂逅時に匹敵するくらい。体重はあの頃より格段に上がっているので、その威力は推して知るべし。
「そういえば彼は刃を向けられるとぶっち切れて狂戦士化しまうらしいな。気を付けろよグレイー」
薄れゆく意識の中でそんな言葉を聞いた気がした。
「……思い出した」
グレイの考えている光景はバースも見ており、思い出しているのだろう。くつくつと笑いが漏れる。
「あんたが頭から叩き付けられるなり、書記係さんがすっ飛んできて『せんぱい! 死なないでください! あたし達は生まれたときは違っても死ぬときは一緒だ、て誓いあったじゃないですか! もし……もし本当にせんぱいが助からないなら……このミリア・ヴァレスティン、地獄だろうと天国であろうと果てまでお供する次第です!』とか何とか喚いて、運び出すの大変だったんだぜ? 好かれてるってのはいいな~?」
「お前までワーウーみたいなこと言うなよ……」
軽く体を動かしながらグレイは改めて周囲を確認する。
白いカーテンで四方を外界から仕切られている。恐らく保健室のものを借りていたのだろう、その城は漂白剤でも付け込んだかのように綺麗だった。
自分が寝ているベッドもそれに負けず劣らず、純白だ。保健室のものは金属で固定されているはずなので、ここまで整頓されていたものをどこから持ってきたのか。気にはなったがそれ以上にまず言わなければいけないことがあった、なのでそれを言った。
「ともあれありがとな、助かったわ」
「あー……だったらよ……お返し代わりに俺のことを助けてくれねえか?」
頬を人差し指でかきながら頼んでくるバース。これは意外な申し出、と一瞬グレイは思ったがすぐに疑問が解けた。
「おいおいおい、キバット! キバンカ! 見ろよあの身体! あの女の子着痩せする身体だったんだな! 出るとこ出て引っ込むところ引っ込んで! おー! あっちもすげえ! なんて美脚だよ! 色白の肌にすらりと伸びた脚! 脛毛なんて一本も見当たらねえ! 濃紺のブルマとの対比がまたたまらねえものを引き出してるなあおい!」
「華やかな見た目に惑わされ本質を見逃しているようではまだまだだな。キバ。脚や胸などいくらでも後から見られる。今しか見られないものを見るべきだ。即ち! ブルマからはみ出した下着を見るべきだと言うのに!」
「マジかキバンカ! どこだ! 何色だ!」
「大声を出すな! 気付かれたらどうする! ……まあしかし、もし気付かれたらそれはそれでよいかもしれん。気付いたときに、そっと指を入れて下着の収納を行う。あの動作に至上の色気を感じるのも事実であるしな」
「あー、分かるわーあの瞬間、すっげえ指になりたいとか思うもん! それが無理なら間近でみしてくれねえかなと思うわ!」
「……お前らそんなことばっか言ってるからモテないんだぞ」
「何でだよ! 本心を隠すむっつりスケベがモテないんだろ! 対する俺たちはこれでもかと心を開放している! むっつりとは、真逆! だったらモテるはずだ!」
「露骨すぎるんだお前らは。仮に女性がそういうこと言ってたらどう思う、『あーあの男子の筋肉たまらんわー』とか『やだ! 彼ったら下がはみ出しているじゃない! もードジっ子なんだから!』みたいなこと言うやつがいたらお前らどう思う?」
『最高だ! 彼女にしたい! 結婚したい!』
姿形こそカーテンに遮られている。だが聞こえてくる会話から、大体の状況が推察出来た。三連牙が男子高校生的かつ、性的興味関心高揚会話が炸裂している様だ。
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