第6話 魔王になろうと開発したのはヴァン
6-① 皆……勝つぞ!
ヴァルハラント学校の体育館は元々かなりの広さでつくられている。運動競技が盛んであるために、体の大きい魔族であっても活動できるために、通常の体育館より面積も高さも巨大に作られていた。
しかしそんなヴァルハラント学校の体育館が狭く見えるほど、今は人魔が集結していた。生徒会主催交流運動大会、それを体育館で行う組が集結しているからだ。
そしてその中でヴァンは多くの同じ組の生徒に囲まれていた。
何か善行をして称えられている、わけではない。それを裏付ける様にヴァンの顔には意気が込められていた。
「勝利の美酒! それを飲み干したいとは思わんか!?」
『応!』
「勝利することは容易ではない。努力を積み、集中を研ぎ澄まし、運を掴んだ者だけがえられる、宝! それを得たいと思わんか!?」
『応!』
「勝利を得たものは祝福されるだろう。それは家族であり友であり恋人! 諸君等はそれが欲しいとは思わんか!?」
『応!!』
その言葉に満足そうに頷いたヴァンは指さした。数多くの人魔が並んで待っているところに、対戦相手に向けてだ。
「ならば見よ! 眼前にいる敵を! 奴らは我等より年こそ下であってもその中にぎらついた牙や爪を持っている! 油断をするな! 奴らに喉を掻き切られるぞ! 手加減をするな! 全身全霊を持って! 慈悲をかけずに! 骨の髄まで恐怖を刻むほどの暴力を行使せよ!」
「交流運動大会に何を言ってんじゃお前は!!」
「ぐほぉあ!」
囲んでいた円が歪んだ。一部がヴァンに激突する。
ひらたく言うとグレイがヴァンに頭突きをかましたのだ。損傷は無いが、完全意識外から攻撃だったため、ヴァンから驚きの声を引きずり出した。
「貴様グレイ! 士気を盛り上げる場において、大将のやることを邪魔するなど正気か!? 痛みは無いが腰に頭突きなど! 不意討ち過ぎて驚きが隠せない! 痛みはまるでないけど!」
「やり方が問題なんだっつーのやり方が! なんだその演説! 下級生を悪魔みたいに言ってんじゃねぇよ!」
最早痛い云々の部分を放棄したグレイは、ヴァンの言動に突っ込みを集中することにした。
「勝利を奪おうとする時点で誰であろうと悪魔だ! そしてグレイ! 我が演説を邪魔してくれた貴様も悪魔も同然だ!」
「言ってろ! 俺のやったことは正しいことだ!」
「正しい? はっ、周囲の和を乱した貴様が正しい!? これはお笑い草だ! 新たなお笑いの師として世界に名を轟かせる気か? その時には俺が全力で応援してやろう! どうぞ皆さまグレイ・グラディウス氏をご覧あれ! 天下一の笑わせる役者、ではなく笑われる役者様でございます! とな!」
「てめえが周囲の和だとか、どの口がぬかしてやがる! 俺は大概てめえに巻き込まれてばっかなんだぞ! そのお前が周囲の和とか語ってたら、この世に存在する辞書全て不必要品と化すわ!」
「あのー……」
ヴァンとグレイが視線を向けた先に見たのは、1人の人族。おずおずと手をあげながら発言を続けた。
「いい加減始めないと対戦相手だれちゃいません……?」
その男の言うことに理をヴァンは見出したまたグレイもそうであったため、一度にらみ合いながらも、その拳を引っ込めた。
「……グレイ。お互い言いたいことはあるだろうが、ここはやめだ。これ以上時間をかけるわけにはいかん」
「……そうするか」
お互い不服そうに顔を歪めながらも頷きあう。そしてグレイは再び円陣の中へ、ヴァンは再び中心へと戻り、いつも体に装着されたマントを翻す。
「思わぬ邪魔が入ってしまったためあと一言だけ言わせてもらおう……」
こほんと一度咳払い、喉の調子を整えたその声はよく響いた。その内容も。
「皆……勝つぞ!」
『応!!』
円陣が崩れ縦一列に並んでいく。
今ここにヴァンとグレイの組と1年生の組が戦う、生徒会主催交流運動大会の試合が始まった。
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