5-⑤ それを守り通そうとする俺はもっとアホだな
〇月×日
ヴァンが生徒会に立候補するらしい。
お前生徒会に興味あったの? と聞いたら
「生徒会長になった方が魔王への近道になる」
とかぬかしてきやがった。出まかせ言ってたのと思ったけど、あれは本音だったのか……
生徒会長になるなんて内申では役立つかもしれないけど、魔王になるのにどう役立つのかさっぱり分からないんだがな。
ともあれヴァンみたいなやつが生徒会長になれるわけがない、とタカをくくっていたらどうもほかの候補者がいなかったらしい。そのためどうあがいてもヴァンを生徒会長にしてやろう、と先生たちが動いているみたいだ。
まずい、このままだと生徒会長になって暴走していく未来しか見えてこない。だが聞くところによると会長以外も候補者がいないようなのだ。
……俺は決断を迫られた。生徒会に加わるのか、否か。
俺に迷いはなかった。だから生徒会に参加するのをあっさり決めた。
何でそんなことを、って自分でも思う。やらない方がずっと楽なんだ。関わらない方が、相手にしない方が、無視する方が生きていくうえで必要なのだ。
でも友達なんだよな。
友達は無視できない、したくない。
かつて俺がヴァンを無視しなかったように、この間ヴァンが俺の悩みを見抜いて、奴なりに解決しようとしてくれたように。
そう考え、生徒会に立候補するための用紙をもらおうと俺は職員室に向かった。そこには偶然何かの書類を渡しに来てたらしい、ミリアと鉢合わせした。
不思議そうにしていたミリアに事情を話したら、2つ返事で自分も立候補することを伝えてきた。
「あの伝説的善人、グランハウンド先輩とせんぱいが組むであろう生徒会ですよ! これに入らないなんていう選択肢、あたしの細胞が拒否しますよ!」
どうもミリアは以前新聞で小さく取り扱われた、ヴァンの善行を知っていたようである。
「お前の考えている通りになるかどうかは分からないぞ? しかも他の立候補者がいなかったら恐らく兼任が多くなるから忙しくなるぞ?」
「せんぱいが共にいるのなら忙しいのが何ですか! どんとこいです! それにせんぱいと生徒会の仕事終えて、夜遅く2人で帰るってちょっと憧れます! むしろすごくしたいです!」
「……はっきり言うなお前は」
「おほめに預かり光栄です!」
ほめたつもりは無いんだけど、ミリアはそう言っていたので、とりあえず笑って頷いておいた。
ともあれこれ以上立候補者が出てこなかったところを見るに、恐らく俺達で生徒会は決まりだろう。
生徒会長:ヴァン、副会長:俺、色々:ミリア。(ミリアの負担大きすぎないか? 手助けできるところはしないと、仕事できるかどうかは置いといて俺が色々やるべき)
たぶんヴァンは会長に就任してからすぐに何か仕掛けてくる。
それを裏付ける様に、ヴァンは最近あまり姿を見かけなくなることが多くなった。恐らく魔王になるため、ということでくだらない作戦でも考えているのだろう。
だが俺は思っていた。ヴァンの幸運、いや、悪運というべきか、それとも全てを捻じ曲げるがごとく起きる運だから、『超運』とでもいおうか? ともあれその超運のおかげでヴァンの計画はどうせ流れるだろう。それはたぶん覆らない。子供のころから3度立て続けに発生しているところを見るに、恐らくあいつは何か変なものに愛されているのかもしれない。
だからといってそれに任せっきりにして、知らん顔をするのは嫌だった。俺がヴァンを無視しているかのようだったから。
だが俺では恐らくヴァンを止めることはできない。ならば俺にできることは何か。
…ヴァンに突っ込んでやることじゃないかな。
こいつに普通の道を歩んでほしいから。そしてもし完全に道を外れてしまったとき、俺が止めてやるために。
だからずっとヴァンに突っ込んでやる。明日も、明後日も、恐らく卒業してからも、大人になって会っても。ずっと俺だけは突っ込んでやる。それがたぶん俺ができる唯一のことだろう。
ここでグレイは日記帳を閉じた。あとは生徒会就任、隕石落下、バースとの喧嘩、生徒会室爆破、裏生徒会四天王謹慎などが書かれている。
「……へっ、自分の日記とはいえ、寒くてアホなことを書くよな」
(そしてそれを守り通そうとする俺はもっとアホだな)
そう考えながらグレイは日記帳を戻し、ヴァンの部屋へ向かった。
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