5-③ それはお前以上の友はいないということだ

 ×月〇日

 中学最終学年が始まったとき、珍しいやつが俺の学校にきた。

 挨拶も連絡もなかったが、ひどく懐かしかった。

 ヴァン・グランハウンド。そう、あのヴァンだ。身長や顔付きなど変わった点もあるが、俺は一目で分かった。


「お前……ヴァンか? ヴァンなんだな!?」

「……久しぶりだな、グレイ」

 最初の一瞬、俺はどう話すか迷った。

 果たして子供のころの様に話すべきか、それとも今の俺の口調で話すべきか。

 僅かなためらいの後、俺は今の俺の話し方で話すことにした。さすがにでっかくなった今でも「ヴァンくん」はねえだろうしな。

 最初一瞬だけ意外そうな顔をしたが、それはすぐに戻り答えてくれた。

 

それだけで何というか……何年間かの別れなんてなかったんじゃないか、そう思えるくらい俺たちは普通に会話していた。

 ともあれその日はヴァンを俺の家に誘い、2人で盛り上がった。恐らく俺がもっと大人なら酒でも出してただろうが、あいにく果実水が関の山だった。

「それにしてもグレイ、しばらく会わないうちに口が悪くなったな」

「んー……周りに影響されたってやつかな。何だ、やめた方がいいか?」

「いや、口調こそ変わったものの、本質は変わっていないようで俺は安心した。それにお前の口調を俺がどうこう口出しする権利はあるまい」

 手を振りながら否定するヴァン。芝居がかった仕草だったところを見るに、演劇部でも入っていたのか?

 俺がそんなことを思ってたら話題を変えてきた。


「ときにグレイ。お前、卒業後はどうするつもりだ?」

「あんまいい話じゃねえな……ま、適当な高校にでも進むつもりだよ」

「行く先は決めているのか?」

「いや、特に決めてねえよ」

「ならヴァルハラント学校に来ないか?」


 さすがに驚いて、持ってた菓子を落としてしまった。

 ヴァルハラント学校は人族魔族混合の学校で、歴史もあり、設備が最近作り替えられたということで俺自身も気になっていた学校の1つであった。しかしそこに必要な成績は……俺にはキツい。

 そんな俺を置き去りにしてヴァンが解説し始めたが、ヴァンは既に学校に通わなくても卒業できる資格を得ているとのこと。現在は推薦で入学する場所を選んでいる最中だという。

 軽い嫉妬を覚えつつも、おめでとうと言ったらヴァンは返してきた。


「グレイ、俺はお前と離れて分かったことがある。それはお前以上の友はいないということだ。確かにあちらの学校でも友人と呼べる人間関係は築けなかったわけではない。だがやはりお前以上はいない」

 俺を指し示しながら、硬い表現ではあるが、ヴァンなりに褒めてくれている。

 気恥ずかしさは無くもないが、嬉しいのは確かだ。俺を指しているのが棒状のお菓子でなければもっと喜んだだろうけど。

「だからお前と同じ高校に進みたい。それにヴァルハラントはこれから伸びる学校だ。ここに進んで悪い話はあるまい」

「俺だって行きたくないわけじゃないけど、だがヴァルハラント学校は俺じゃ成績が届かなくてな……」

「つまり逆をいえば成績さえ解決すれば来てくれるわけだな?」


 俺は多少戸惑った。

 確かに成績は問題だが成績が無ければ、断る理由は無い。

「どうせお前のことだ。昔から勉強が出来なくて困っていたのだろう?」

「……否定はしねえよ」

「グレイ、そういうときこそ友を頼るべきではないのか? そしてその友は時間を持て余している。つまりどういうことか。分かるか?」

 つまりヴァンは俺のために鍛えてくれるというのだ。勉強の面倒を見てくれると言いたいのだ。

「……いいのか?」

「容赦はしないぞ」


 その日から俺の猛勉強が始まった。ヴァンが俺の家に泊まり込みで教えてくれ、ほぼ勉強漬けになった。なお、これを書いてる手も痛いくらいなので、これからしばらく日記は途切れる。ああ、今日もヴァンがドアを叩く音が聞こえる。俺の悪夢の時間だ……




 ×月(だめだつかれた)

 ヴァルハラント学校合格、もうこれ以上書きたくない……とにかく休ませて……




 〇月×日

 ヴァルハラントは周りの奴らの水準が高いことだけは引っかかるが、それ以外はやはりいいところだった。校舎は建て替えをしたらしく、設備も整っている。

 ただ予算が足りなかったのか、学生寮だけは大分ぼろくて困ったが、部屋の中は良く整えられてあり、少なくとも清潔感はあった。最も外壁は擁護できなかったが。

 でもそんなことを全てどうでもよくなるくらい、やっぱり授業についていけないのが辛い。ヴァンが時折授業でわからない部分を教えてくれるのでぎりぎり何とかなっているが、それもどこまで持つことやら……

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