第5話 止めを刺したのはミリア
5-① 『無視は愛情の反対』なんだよ
ヴァルハラント学校をヴァンが休み初めてから、5日が経過した。
1日目は特別騒がなかったものの、2日、3日と続いたときにはさすがに噂が全速前進していた。
ジウソーの謹慎に心を痛めている。不治の病にかかった。強大な上級魔法を練っている。
様々ではあるが、どれも真実では無いのをグレイのみは知っていた。
そして5日目。
遂に教員側からお見舞いということで、ヴァンの寮部屋を訪れることが決定した。
しかしいきなり教員側が押しかけてきては、威圧してしまうかもしれない。
そのため、まずは付き合いの長いグレイが訪問して、出席に関しては公欠扱いとするとの旨を受けている、それでも効果が無ければ教員が行くことと相成った。
(最もお願いされてなくても、自主的に行くつもりだったんだがな)
そう思いながら、グレイは制服に袖を通す。
学校に向かう訳ではないから着る必要はないかもしれないのだが、一応公式的な訪問に分類されるものに私服で行くのはどうか。
そのように考えたため、きちんと制服に身を包んでいき、出発の準備をほぼ完了させた。
(今度こそと思ってたヴァンの作戦がまた覆された。そりゃ引きこもりたくもなるか)
長年付き合いのあるグレイには分かっていた。ヴァンはそこまで精神が強くない。昔から感情をあらわにしたところをいくつもいくつもグレイは見てきた。
後はヴァンの部屋に向かうだけ、となったときふと目に止まるものがあった。
自分の机に常備され、毎日つけてきたもの。小さいころ親に言われて始めた日記帳。
(思えば長い付き合いだけど……あいつ変わらねえよな)
グレイは一番古い日記帳を取り出し、読みだした。まだ漢字もほとんど知らないが必死に書いてあるその記録は、グレイを懐かしくさせ頁をめくらせた。
○月×日
きょうぼくのとなりの家に新しいひとがきた。
ずっとだれもいなかった家で、どろぼうとかがいると言われてたくらいきたない家だったけど、すっかりきれいになっていた。
だれが来たんだろう?
ぼくが外から見ていたらいきなりまほうでぶっとばされた。
お母さんからあとで教えてくれたけど
「羽みたいに空とんでたたきつけられた」
らしい。いたくはなかったけど、そのときぼくははじめて「きぜつ」ということを学んだ。
その日の夜、となりの人があやまりに来た。
ぼくと同じくらいの男の子をつれてきていて、
「すいませんすいません」
とペコペコとあやまってくる女の人(その子のお母さんかな?)、でも男の子はあやまらなかった。
「家をチラチラ見ていたからどろぼうかと思った」
スゴい子だ! ぼくがわるくないのにぶっとばしてそう言ってきたんだ!
「だが……わるいとは思っている。これはわびだ……」
そしてぼくにもってきてくれたくだものをくれた。それがぼくの大好きなものだったんだ!
この男の子はなんていい子なんだろう! ぼくは大喜びでそれをもらい、その日のうちにぜんぶ食べてしまった。
こうしてぼくはヴァン・グランハウンド君と友だちになった。
○月△日
この前かいたことをなおさないといけないのかなぁ。
ヴァンくんはぼくを友だちとは思ってくれなかったみたいだ。いつも会いにいっても
「おれはいそがしい」
と遊んでくれないからだ。遊んでくれてもいいのに。ぼくってヴァンくんの友だちじゃないのかな。
いや、きっと何かあったんだ。だから遊べないんだ! また明日にでも、それもダメならそのつぎの日に言えば、きっと遊べるはずだ!
〇月□日
「おまえには負けた」
じゃんけんもしたことのないヴァンくんがいきなりこう言ってきた。遊びに10回くらいさそったらいきなり言われたので、ぼくはよくわからなかった。
「? なんかしてたっけ?」
「……いい。無視しろ」
「やだ」
「……なぜだ?」
「『無視は愛情の反対』なんだよ」
これはぼくがもっと小さいころからおそわったことだ。
無視する人ぞくにはなるな。と言われてきた。
だからぼくは無視しない! それはヴァンくんだろうと同じだぞ!
「だから無視しない!」
「……そうか」
「そ、だから遊ぼ!」
それからヴァンくんとよく遊ぶようになったけど、やっぱりヴァンくんはすごかった!
ヴァンくんはいろんなことを知っていたんだ。
どれがケガにきくのか、たべられる草はどれか。あぶないけものをたおす時やわなのかけ方。ぼくはヴァンくんをほんとうにスゴいと思った。
でもぼくも知っていた。どこに公園があるのか。どこがあまり人がこないところなのか。かくしばを作るのにいいところをヴァンくんに話した。
「ひみつきちをつくろうよー」
「魔王のひみつきちに……いや、このていどのきぼでは……しかしれんしゅうとしては……」
いろいろとヴァンくんは言ってたけどさいごにはいろんな物を持ってきて遊んだ。やっぱり2人で遊ぶのは楽しい!
「また遊ぼうね! ヴァンくん」
「ああ、グレイ。また会おう」
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