4-㉑ な、何だってー!!!
そのとき、ヴァンの頭にひらめきが訪れた。
ミリアの事例、グレイの被害。
(あの2人ともがドアに関わったばかりに肉体的被害を被った。そして今俺の策が完成されようとする寸前、ドアに向かうジウソー……いかん!)
何か起こる。
超運の発動が。
そう考えたヴァンは先ほどのジウソーよりも大きな音を立てて、立ち上がる。
「!」
それを口封じの行動の前触れと取ったのか、一瞬だが激しくジウソーの体を震わせる。
「ドアを……開けようかと……思いましてね……客に対するせめてもの礼儀を……」
それを裏付けるかのように、ヴァンは足早に近付き、仮生徒会室のドアを引いて開ける。ゆっくりと開けたため、必然怪我をする者はいない。
だがそれがジウソーの不信感を増大させる。
「……本当に行くぞ、いいのか? 止めるなら今だぞ?」
「どうぞ、ご自由に。公開も含めてあなたの好きなように」
(ドアの障害も突破した! これで! ついに! 俺は!)
「……っ!」
ドアからジウソーが一歩踏み出して外へ出たとき、上から聞き覚えのある声が聞こえた。
「……………………ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお俺はヴァルハラントの三連牙ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その声の主は、キバ。
1つの矢と化したキバが屋上から突っ込んできて、ジウソーに直撃した。
慣性が付いたキバは当然その場で止まることない。ジウソーを巻き込みつつ机、椅子を飛ばしてドアの反対にある壁に直撃。
そしてその結果、両者ともども意識が外へ飛んでいった。
「…………………………………………………………………………はっ?」
「よっしゃあぁ! 命中ぅ!」
またもや聞いたことのある声、そこへゆっくりと目線を向けると屋上に残りの三連牙とバースがいた。片腕を掲げて成功と達成を表しながら。
「生徒会長さん! 生徒会室に裏生徒会がいるのはキバットから聞いたぜ! そいつが出る瞬間待ってたんだが、ドンピシャだったな! 俺にはこんなことしかできねえけど、せめて副生徒会長さんの敵はうってやったぜ!」
「……………………余計なお世話だああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
先日の隕石落下のとき以上の絶叫が響いた。
しかしヴァンは即座に切り替えた。キバをどかし、気を失っているジウソーに対して治療魔法をかけ始める。
胸に直撃したところを考えると、録音魔法機の無事は期待できない。しかし全てが失われたわけではない、ここでジウソーが復活すればまだ巻き返せる。ヴァンはそう信じ、声をかけ始めた。
「諦めるなジウソー! しっかりしろジウソー!」
治療魔法の効果は抜群で、怪我がみるみる回復していく。しかし意識は戻らないのか、目は閉じられたままであった。
「それでも裏生徒会四天王筆頭か! 俺を悪として裁くんだろ! 悪が生徒会を運営しているのがおかしいんだろ! その気迫と覚悟を持つお前が! 正義の使者として活躍しようとするお前が! 倒れてどうする! 立ち上がれなくてどうする!」
「会長……」
その声の主はミリアだった。閉じるのを忘れていた扉からグレイと2人で、ヴァンの現状と倒れているジウソーを見ている。
この時点でグレイは大体お察ししたようで「ああ……」と表情で語った。
「会長……なんて優しい……! 会長を悪と呼ぶ人族を庇うなんて……! 正義の使者なんて言って激励するなんて……!」
「待て! 待つんだ! ミリア! 勘違いだ! お前の悪い癖だ! 今お前が考えていることは重大なる過ちだぞ!」
口ではそのように述べるが、ヴァンは治療の手を放そうとしなかった。そしてそれは傍から見ると天邪鬼的行動にしか見えない。特にミリアにはそうだった。
「これは……そう! 人道的! 当たり前の行動をしているだけに過ぎない!」
「その当たり前を積年の敵にしているわけですか! 凄すぎじじゃないですか!」
いまだ意識を取り戻さないジウソーにミリアは指を突きつけ
「この人はあたしたちの生徒会室を爆破した犯人の1人で! しかもせんぱいを傷つけようとした大罪人の1人ですよ! それなのに治療するなんて……しかもそれを当たり前って! 人道的って! その姿勢が一番難しくて聖人的行いなんですよ!」
先のキバの突っ込みによる狂騒、ヴァンの叫び、いつものミリア。この三連攻勢が、仮生徒会室に人魔をぞろぞろと集まらせてくる。
「何があったの?」
「ヴァン会長が聖人になったとか」
「もうなってるだろ?」
伝言が真実を歪め、人魔が見たい、こうであるべきと考えるものへと変わっていく。
(まずいまずいまずいまずい……! どうする!? どうすればこの状況がひっくり返せる!? 考えろ……! 考えるんだ……! 考えることで俺の未来は切り開かれてきたんだ……!)
「皆さん聞いてください! 今ここで倒れている人は、先日起きた生徒会室爆破事件の犯人の1人なんです!」
『な、何だってー!!!』
指揮者でもいたのか、そう思えてしまうほどの大合唱は、生徒会室の窓を揺らすほどになった。
「でもそんな犯人を、会長は怪我したということで手当てしているんです……! しかもこの人に俺が悪でお前が正義で、と励ましているんですよ……治療魔法までかけているんですよ……! 敵なのに! 悪い人なのに! 治してるんですよ……!」
『な、何だってー!!!』
先ほどと劣らぬくらい、人魔の一体化した声が学校を揺るがす。空気の激震が建築物を、そして何よりヴァンの心を激動させる。
「ミリアあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! お前ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
肺、喉、口、詰まることろ全身全ての機能を使い怒号だったのだが、それを受け止めるのは誰もいなかった。
『ヴァン会長、凄すぎる!!!』
とは誰も語っていなかった。しかし、目とは口ほどに物を言うときがある。今がそれだった。
皆が皆、ヴァンを見つめていた。
尊敬し、礼賛し、賞賛を詰め込んだ眼差しで。
物語に出てくる英雄を見つめる様に。
神話に描かれる神を見つめる様に。
歴史で語り継がれる聖人の様に。
「あ、ああ、あああ……」
崩れていく、全てが。
最早今ジウソーが意識を取り戻しても、何事かを主張しても意味をなさない。彼の言うことなどいちゃもん程度にしか思わず、それどころか
「こんな奴を庇おうとしていたヴァン会長すげー!」
というものも出てくるかもしれない。
目指していたものへの道が閉ざされ、足元が砕けるかのような錯覚。倒れそうになるくらいのめまいと、潤む
その中で唯一違った目をヴァンは発見した。
グレイだ。
彼だけは他のすべてとは異なり、それでいて最近見たことのあるものを向けている。
そう、先ほどの会議で、ミリアとの議論で負けたときと同じ目。つまりは
「無理だ、諦めろ」
といっている目。
「………………うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!」
遂にヴァンは涙を流してその場に崩れ落ちた。
それはジウソーを庇いきれなかったことへの無力感の泪、ミリア達はそう受け止めた。
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