4-⑳ 俺悪人認定! 魔王確定!

(ひとまずは安心……しかしこれで満足させてはダメだ。満足とは、満ち足りる、と書く。即ちそこで終わりなのだ。こいつの中で完結させてはいけない……だから今いるのは、挑発! 俺のことを憎悪させる必要がある!)

「ですが、それがどうだと?」

「なんだと……?」

「私が悪であり、魔王になろうとしているのは認めましょう。しかし私が一体何の罪を犯したと?」

 みるみるジウソーの顔に、血が上っていくのがわかる。

 我が策なれり、心中でヴァンは呟いていた。

「結果論と言われるかもしれませんが、私は現在に至るまで失態をしていません。ならば私を裁くのは一体どの校則や法律が行ってくれるのでしょうか?」

「お前は何を見ていたのだ! 私が先ほどから証拠を出したではないか!」

「ええ、見せてくれました。ただし先ほど見せて頂いたものは隕石落下の調査記録であり、私の悪を証明するものではありません」

「お前の自供があるではないか! つい先ほどお前は悪だと認めた!」


 唾を飛ばしながら主張してくるジウソーをヴァンは一笑に付した。

 声量では先のものと比べればずっと規模は小さいものだが、効果のほどは絶大でありさらなる赤色を顔に呼び込む。

「何が可笑しい!」

「いやいや、あなたの知識に感服したまでですよ。まさかこの時代になってまで自白に全幅の信頼を寄せているとは。敬服すべき古典の知識ですな」

「私の考えが時代遅れだとでも言うのか?」

「違うとでも? 自白というものは強制して吐かせることも、誘導して言わせることも、憔悴しょうすい困憊こんぱいの末の吐露もあり得ます。客観的かつ証拠たり得たのは前時代まででしょう。それにそんなのは言った言わないの水掛け論に発展することもおかしくありません」


「……ならそれを録音しているとしたらどうだ?」


「……ほう」

 ヴァンの遅れた相槌を動揺の産物と捉えたジウソーは調子づいた。ジウソーの顔に笑みが再度出現する。

「今だけのものではない。ここに入ってからやった議論も全て録音している。卑怯とは言うまいな?」

「……まさか」

 2度目の沈黙。これもまたジウソーが望んだものではなかった。だから七変化の様にして苦悩を露にする。


(何故たじろがない……はったりととったか……? ならば嘘ではないということを証明するために再生してやるべきか……? いや、しかし、もし逆にそれを壊されでもしたら……暴れて全てを台無しにされたりしたら……)

(最高だこいつ……! さっきの会話を録音してくれてた! さぁ1秒でも早く公開に向かってくれ! それが公開されれば! 今度こそ間違いない! 今度ばかりは一切の別解釈を許さない圧倒的事案! 俺悪人認定! 魔王確定!)


 ほぼ想定通りの進行状況、なのに焦りまくっているジウソー。全く予想外の展開、なのに笑いを堪えきれないヴァン。

 正反対の状況、真逆の心境。奇妙な現実がこの仮生徒会室を包んでいた。


「分かっているのか? 私がこれを公開すればお前は破滅するのだぞ?」

(善人人生の終焉! 人生史上の中で最高の贈り物だ!)

「それなのに何故止めてこない! 何故懇願しない! やめろと言わない! お前はこれまでの地位も人気も失う! それだけではない! この学校の生徒はおろか教員や関係者すべてから、いや、それだけでなくこの世に存在するすべての人魔から悪として見られるんだぞ!」

(最高じゃないか!)

「誰も味方するものは無く、お前を嫌い、攻撃してくるものすら出てくるかもしれんぞ!」

(本望であり本願であり本懐であることをためらう理由などあるわけない!)

「なんとか言え! 言ったらどうなんだ! ヴァン! ヴァン・グランハウンド!」

(言ったら喜びしか出ないから黙ってるんだよ!)

 もしここにグレイがいたら、何とも言えない微妙な顔をしながらどう突っ込むか迷っていただろう。ヴァンの真実を知っているから。しかしそれを知らないジウソーはしらを切っているようにしか見えない


「……もういい!」

 飛び上がるようにジウソーは席を立った。

「せめて申し開きを聞こうとは思っていたのに、まさか開き直るとは!」

「………………開き直りとは心外ですな。大人しく裁きを受ける被告人の如き心境であるというのに」

 ジウソーの感情の爆発がヴァンの冷静さを生み出すこととなったため、やっと発言した。最も最早彼は言葉を必要とはしていなかったが。

「いちいち屁理屈をこねるな! 謙虚にしていたなら私も穏便に済ませようとも思っていた。しかしそれすらもないお前にかける情けは無い!」

 ジウソーが右腕で自らの胸を軽く叩く。

「ここに入れておいた録音魔法機によってお前の人生を狂わせてやる!」

 席を乱暴に戻してドアの方へ足を向ける。

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