4-⑭ 親子間で猥談ってするのか?
「三連牙の人! これちょっと持っていて下さい!」
キバットに紙束を叩き付ける様にして渡してきた。そしてキウホを真正面から睨み付ける。まるで視線で射殺そうとせんばかりに。
(ミリアのやつ、やる気か……)
例えていうならミリアは炎。口調の勢いと単語の連続攻撃は反論相手が展開を考えや反応を返す間もなく、自分の言いたいことを言い、どこから反論するのかを考えるともう次の手を飛ばしてくる。
一方キウホは知り合ってからわずかでしかないが、何とはなしにその性質をグレイはつかんでいた。
キウホは氷なのだ。
自らが持つ考えが何より優先すべき、絶対のものであると考えているため、近づいてくる相手の考え、理屈を凍らせてしまう。
炎対氷。全く相反する2つのものの激突が始まった。
「あなた一体何ですか! せんぱいに対して何してたんですか!」
「今はまだ何もしてないわ。これからとってもいいことをしようとしていただけ。というか確認すらしてないのに攻撃してくるなんて礼儀がなってないのではなくて?」
「せんぱいに無理矢理迫っているのは確認出来ました! それだけで十分攻撃的案件です!」
「怖いわね、さっきも言ったけど私を殺す気なの?」
「殺しはしません! 近付いてくる熱はあなたも分かったはずでしょう! あなたが回避するのも含めての一撃でした!」
ミリアの言に嘘はない。
先に放った光弾は熱こそあったものの、キウホを狙ったものでは無かった。熱は副産物であり、本来の目的はグレイの影を消すためのものだった。
影縛りは効果こそ絶大だが、それも影があればこそ。影さえなくせば上級魔法といえど意味を成さなくなる。効果こそ絶大だが解除方法は簡単なためあまり流行しない上級魔法なのである。
それをキウホも感じ取ったのか、それとも最早どうでもよかったのか、話題の変換を行った。
「ところでさっきも言ってたわね。あたしのせんぱいがどうとか。なに、彼はあなたの恋人なの?」
「こ、恋人……! も、もちろんですとも! せんぱいはあたしの恋人……! です!」
言い切るのに恥じらいを覚えたのか、普段のミリアらしからぬ歯切れの悪い言動になる。
これだけでも気付きそうなものだがキウホはそれ興味を持たなかったようだ、それを踏まえた上の論理を展開し始めた。
「じゃあとっくに色々済ませてあるのね。付き合いが長いなら当然色々やっているのでしょうし」
「え?」
「口付けは当然済ませているとして、きちんと舌は入れたのかしら。お互い見せあったり揉み合ったりくらいはしたの? もしかしてヤることは全て既にヤった? だとしたら羨ましいわね。私は肉体が無いからそれがどうしても出来ないことだから」
「え、えと、それは……」
どれもやっていない。
でも素直には言えない。
そんな板挟みにあったミリアは挙動不審寸前の態度を取っていた。
そしてそれを見逃すほどをキウホは鈍くなかった。声の調子が変化した。
「あなた……逆ね。何もしてないのね」
「い、いや! しましたよ! そう、私とせんぱいは猥談! 猥談しましたよ! エッチな話をしました!」
「でもそんなのは男子学生同士でも出来るものよね。恋人同士、愛人、夫婦間で行うものではないわね」
「ちゃ、ちゃんと1から10まで! 始まり方から終わった後の喋り内容まで! あたしはせんぱいから教わりました! これは愛の証しになるんじゃないですか!」
「笑わせないで。夫婦や恋人とは即ち特別な存在なのよ。つまり話す内容も特別なものになる。しかしこの世の中で猥談をするのは老若男女問わず、友人、兄弟姉妹、親子間何処であっても行われているもの。進めて言うと、あまりにも世界に溢れかえっているものであるわ。数値換算にも出来ないほどこの世の中に乱雑されているものであり、何処で行われていても不思議でも何でもないこの行為は、特別なものではない。特別なはずの夫婦や恋人にしか行う行為足りえない。よってあなたの主張は成立しない」
「親子間で猥談ってするのか?」
「俺の家ではしなかった」
蚊帳の外になっていた二人の会話はそこで途切れた。再びミリア・キウホの議論が開始されたからだ。
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