4-⑧ 『今じゃない』とは言わなかった!
最後の言葉にグレイは一瞬だが改編案の紙を渡そうとしてしまった。そんなグレイを見届けたとき、ヴァンは心底満足した顔を浮かべるが、それもすぐに引っ込んだ。
「ま、グレイをおもちゃにするのはここら辺にするとしよう、さすがに校則を成立させたとしても政治を展開できないしな。この案は成立しえないのだよなー」
「はっ……!?」
「やれることをたくさん増やしたとしても、結局学校の運営は校長に任されてるから暴君などにはなれるはずもないんだよなー」
「て、てめえ……! 担いだな!」
ここにきてようやく事態を理解したグレイはヴァンに掴みかかる。それはヴァンにとって充足感をもたらしたのだろう、唇が奇妙に歪む。
「当然だ。そもそも改編案の紙などいくらでも予備があるのだから、そっちから引っ張ってくればいい。そんなことも分からなかったのか?」
「お前いつかぶんなぐってもいいよな?」
同時に拳が顔に飛んでいた。直撃したが、急所を微妙に外して受けたため、あまり痛みはなかった。
「……もう殴っているように見えるが?」
「『いつか』とは言った! 『今じゃない』とは言わなかった!」
「屁理屈屋め、どうせ叩くなら俺の肩でも叩いてご機嫌でも取っておけば良いものを」
「金砕棒で叩いていいならいくらでもお前の肩たたきを買って出てやるが?」
丁重にお断りしておこう、そういいながらヴァンはグレイの拳をどけた。そしてマントを翻して生徒会長席にゆったりとした動作で座った。
「ま、茶番はこの辺にしておこう。お前にも頼みたいことがあるのでな」
「俺に?」
「ああ、先日バースからもらっていてな……これだ、今行っている調査の手助けをしてほしいということだ」
バースからもらっていたのだろう、ポケットに入れていたメモを読み上げるヴァン。しかしそれはグレイの眉をよせる結果を生むことになった。
「調査のための手は足りているらしいが、報告や書類作成の人員が難しいらしくてな。そこの手助けに行ってほしいそうだ」
「行かないわけじゃないけど、それだったら俺よりミリアの方が良いんじゃないか? 何なら今から呼び戻してくるぞ?」
グレイのいうことに間違いはなかった。
確かにグレイには書類処理能力が絶対的に欠如しているわけではないが、優れているわけでもない。悪くいってしまえば、普通なのである。
しかしミリアは別だ。先日グレイと行った書類整理の件からわかるように、てきぱきと片付けることが出来る。さらに勉強「は」できるため文章の作成も得意としてあり、また文字のきれいさなどグレイの及ぶべくところではない。
正直現生徒会の3人の中で処理能力で言えば最も優れていると言っても過言でさえないのだ。
故にグレイがその要請にミリアを打診するのは当然至極なのである。
だがヴァンは首を横に振って否定の意を表した。
「いや、グレイ。これはお前でなければダメだ。先方もお前を希望していた」
「何でだよ?」
「屋上に残っているのがキバット、といえば大体のところは察しがつくのではないか?」
それは正鵠を射ていた。
途端にグレイの顔に理解と納得が拡散した。だから素直にグレイは屋上に向かうことにした。
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