4-⑦ ……悲しいけど惹かれている俺がいる!
「お前、楽しいのか?」
「当然! これを楽しまなくて何を楽しむというのだ! 奴らは言ったのだ! 俺を悪の権化と! 偉大! 保護条例を作って守ってやろうか!」
「生徒会にそんな権限はねえよ、夢見るのもいい加減にしろ」
いい加減調子にのっているヴァンを鎮めたくなってきたのか、現実という冷水を浴びせかけたグレイ。だが結果を伴ってくれなかった。むしろそれは火薬のような役割となって、ヴァンの熱気をさらに強めた。
「馬鹿な! 生徒たちの頂点に君臨するものが、生徒を取り締まる法律を作れないのか! この世は法治国家ではなかったのか!」
「そいつは政治家の役目だろうが! そしてお前は何だ! 生徒会長だ! 学生の委員会と職業をごっちゃにするんじゃねえ!」
「破綻! 破綻だグレイ! 俺は過去の生徒会が行ってきたことを確認してきた! その中に校則を変化することは何度かあった! ならば今学校裏生徒会を保護するものを、経済的援助をする校則を作るのはおかしいことではない!」
「常識で考えろや! 生徒会が変えるのは、生徒達からの要望やら時代にそぐわないものを多数決で変更するものなんだ! お前の一存で変えるもんじゃねえ!」
至極真っ当すぎる正論はヴァンを絶望の淵に叩き込んだ。
「なら……なら! 生徒会長とは何なのだ! 何のために存在しているのだ!」
「ただの役職だって言っただろうが! もひとつ言うと顔役だよ! 権力もくそもありゃしねえんだよ!」
「そんなバカな! 生徒会長とは王! そのことはお前と確認したではないか!」
「それはお前の妄想だって言っただろうが! それこそとうの昔に破綻してたんだっつーの!」
「なるほど、まずはそこから変えるとしよう! 早速生徒会長に無制限の権限を与える法案を提出するとしよう! 法律を自由に変えていいという権力とそれに反対する術を無くすことで生徒会の権力を絶対のものにしよう!」
「そんな案が……」
通るわけがない、とは口にできなかった。ヴァンの圧倒的支持率なら、むしろ可能な範囲ではないか、グレイはそう思ったからだ。
校則改編のためには生徒からの支持を取り付ける必要はあるが、それは満場一致を必要とはしていない。8割程度の支持を超えればそれで校則は変更されるのだ。
そしてヴァンの言葉は現状圧倒的支持を取り付けている。もちろん学校裏生徒会の面々など、不支持層も少ないながらも存在している。だが同時に大多数の男女を問わず愛されているヴァンが、一度校則を変えるとでもいえば8割など簡単に超えるだろう。
民衆によって選ばれたはずのものが、民衆を虐げるものへと変貌する。民主主義の恐怖と矛盾の部分をグレイは垣間見た。
そしてヴァンもそこに到達した。偶然にあげたものが思いのほか妙案であることに。希望が全身に満ち溢れてくる。
「そうか……この手があったか! 今俺の支持を逆手にとって法案を可決! それにより俺を絶対君主とさせた後で暴君へと変貌! 次々と恐怖政治を断行して民衆の世界に混乱をもたらす! 何故この手に気が付かなったのか! 俺もまだまだだな!」
「させねえ! させねえぞ!」
ヴァンが引き出しから取り出した改編案用の紙を取り上げ、それを背中に隠すグレイ。
「止めるなグレイ! ついに俺の夢がかなう方法を見つけたのだ! それを邪魔するのならば副官とて踏みつぶして進む!」
「止めるわボケ! 悪法作ります宣言してる奴を止めなかったら俺まで悪党だ! 俺は嫌だぞ!」
絶対に渡さない、その意思を顕示するかのようにグレイは壁と自らの体で記入用紙を挟み付ける。
「ならばお前にもいい思いをさせてやることで取引しよう! 俺にも利があり、お前にも利益があるならその身を悪に染めよう!」
「いらんわんなもん! そもそも何をするってんだ!」
「手っ取り早く酒池肉林!」
「子供飲酒禁止! 生きる権利尊重!」
「ハーレム建設!」
「一夫一妻はこの世の法律! 特定の人魔除く!」
「試験免除!」
「……悲しいけど惹かれている俺がいる!」
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