4-⑤ お前がさみしいときはいつでも俺が抱きしめてやる
「それとミリア、もし早くこなしてきたのならばグレイの私物を何か譲ってやろう。好きなものを何でも言うがよい」
「ええ! いいんですか!? 会長人使いがうまいですね!」
「本人を前にして泥棒談義すんなぁ!」
予定調和の様にして、グレイの憤怒の喚きは2人とも流した。
「それでしたら、あたし! せんぱいの匂いが感じられるやつがほしいです! できれば上着! それに包まれているだけで、あたしの人生の幸せ度1000は上がる気がするんです!」
「上着か、分かった。確か箪笥の一番下のところに使わなくなったものが詰まっているはず……」
「今から帰って速攻配置場所変えておくわ!」
今度は流されなかった。ミリアの顔に失意と失望を詰め切った表情をしたからだ。
「そんな! 嫌なんですかせんぱい! あたしはただせんぱいの温もりが欲しいだけなんですよ! さみしいときもいつだってせんぱいが側にいてくれる、それを堪能したいだけなのに! ダメなんですか!」
「グレイ! ここは『お前がさみしいときはいつでも俺が抱きしめてやる』という旨のことを言うべきだ! 一気にお前の好感度は急上昇だ!」
「後でお前の顎引き裂いてやるから引っ込んどけや!」
耳打ちしてくるヴァンを押しのけたグレイは咳払いを1つし
「あー、ミリア。俺はだな……」
「実はこいつ体臭がきつくて、それがお前に知られたら嫌われるのではないかと不安がっているのだ」
今度こそヴァンの急所にグレイの蹴りが入った。脛を叩き神経を直接刺激させた。
「ぐおおおー……! 何という痛さだー……! まるで細い木の棒で軽く小突かれたようだー……! 痣が少しもできないだろうけど、痛さだけはあるぞー……! 本当にあるぞー……!」
「はいはいはいそーですね! どうせ俺は弱いですよー! 今更言われなくても分かってますよー!」
「あの、せんぱい! あたしせんぱいの匂いなら大歓迎です! むしろそれがあった方が嬉しいかなって! その方がせんぱいをより身近に感じられて興奮するって思うんです!」
戯れるヴァン、怒るグレイ、切望するミリア。その中で最も感情が大きかったのはやはりミリアだった。だから会話の主導権を握った。
「だからせんぱい! あたしにせんぱいの上着をください! 何でしたら交換でもいいです! あたしの上着をせんぱいに! せんぱいの上着をあたしに! もしそれも無理でしたらせめて下着を! これも交換でいいですから!」
「……おいヴァンてめえが蒔いた種なんだからてめえが枯らせやこの事態」
さすがに突っ込み切れない。
自らの容量を超えたと判断したグレイは脅迫まがいにヴァンに迫った。
胸ぐらをつかみ上げて締め上げてくる。頸動脈に入っているはず、なのだがヴァンにはまるでキツさは見られない。むしろ涼しげだ。
「……お願いをするときはもっと下出に出るものではないかな? グレイよ。少なくともこのように首を絞めながら言っても、従うものなどいないと思うぞ?」
「これはお願いじゃねえ! 責任を取れって言ってんだよ! 自分で散らかした部屋は自分で片付ける! そんなんガキでもやってることだ! そして今回の事態を招いたのは誰だ! お前だ! だから責任を果たせって言ってんだよ!」
ほう、グレイの必死な主張に対する返事としてはそれはあまりに間抜けていた。苛立ちが募ったグレイだがそれを抑え込んだ。
「成長したな、グレイよ。まさかお前がそのような理屈をもって来るとは……副官として少しだけ相応しくなったと褒めてやろう」
「んなことはどうでもいからミリアを何とかしてくれよ頼むから本当に……」
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