4-④ だからお前はお前の仕事を果たしてこい
はあ、とため息に近いものを漏らしながら、ヴァンは考えを変更することにした。
ミリアの性格を矯正することは出来ないとしたら、その能力の方を活用する方に路線を変えた。
「分かった。この議論は俺の負けでいい。ともあれもう一つの仕事をこなすとしよう。ミリア、資料の方は準備できているか?」
「あれですね、運動大会のことですね? はい! もうばっちりすっきりくっきり出来ていますとも!」
言うなりミリアは鞄の方にすっ飛んでいき、紙の束を取り出した。
ヴァルハラント学校の行事は数多くあるが、その中でかなり大規模にあるのが生徒会主催の運動大会だ。
本来行事とは教員側の方である程度用意をしてから、それを生徒に下ろして実行させるのが主だ。その点はヴァルハラントも例外ではないのだが、これだけは全てが生徒だけが主体となってやらなければならない。器具の手配、会場の準備、広報。その他もろもろ全てをやらなければならない生徒会の大仕事の1つだった。
ミリアが素早くヴァン、グレイに紙の束を配布していく。受け取った紙を見るとその運動大会の概要が書かれていた。
形式は武術大会。
各クラスから代表者3名を選出。先に2勝した組が勝ちで、最も勝ち数が多いところが優勝ということになっていた。
これだけだと強い魔族が集中している組が優勝する可能性が高い。そのため各組の生徒は試合に出られるのは1度のみとする。これにより弱い人魔も強い人魔も、どこで誰を出すかによって戦略の幅が広がる。これにより単純な強さのみでは勝敗が決まらなくなる。
おおざっぱにまとめていうとこのような形で書かれていた。
「ふむ、武術大会か。昨年はただの長距離競争でしかなったから、変化もあっていいな。それに総当たり戦。時間が余るという問題も起きそうにないな」
ミリアから差し出された紙を一瞥したヴァンの感想は無難なものだった。だがそれはミリアにとっては嬉しかったらしく、輝く笑顔がそこに宿る。
「ありがとうございます! ついては会場、器具の準備、先生方や各クラスへの連絡、試合進行管理、全てあたしが担当したいのですが、よろしいでしょうか?」
「全て? さすがにそれは重労働が過ぎるのではないか?」
紙に視線を向けていたヴァンが顔を上げながら聞いてくる。グレイも言葉にはしてないが、心配そうにミリアを見ていた。
「考えてもみてください! あたしは生徒会の一員だというのに何の仕事もしていないんでですよ! 隕石の事件のときも! バースさん達に改心させるときも! あたしは書記係なのに! 風紀係なのに! 一切合切担当なのに!」
拳を上げて力説し始めるミリアだったが、それに2人の感情が比例されることはなかった。ヒソヒソと声を抑えた状態で話し始めた。
「今さらかもしれんが一切合切担当ってさすがに乱暴すぎたんじゃないか?」
「否定はせん」
「だからこの仕事はあたしが! すべて担当します! 準備、手はず、計画、それら全部任してください! せんぱい方はあの裏生徒会とかいうわけわからない奴らの対応をお願いします!」
2人の会話を無視したのか、それとも聞き取れなかったのか。恐らくは後者であろう、ミリアは力説をそのまま続ける。
「あんなせんぱいを傷付つけようとした、会長を貶めようとした集団なんて一秒だって存在してはいけないんですよ! だから会長! 完全無比なくらいに! 完膚なきまでに! 徹底的な殲滅をお願いします! もしそれが叶わないようであればあたしの手で潰してきます!」
「……それには及ぶまい」
一瞬の沈黙が挟まったのに気づいたのは、付き合いの長いグレイだけであった。立ち上がりマントを一度翻す。
「ミリア、私に任せろ。裏生徒会の件はすべて私に任せればうまくいく。だからお前はお前の仕事を果たしてこい」
「はい! このミリア・ヴァレスティン! 会長に任せました! そして会長からの任務を任されました!」
足と手をきちんと揃える、気を付けの姿勢でミリアは応答した。
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