4-③ あたしが突っ込み役じゃないですか!

 2人の喧嘩を仲裁、とは言っても結果的なものだが、ミリアが2人の間に割って入る。

「せんぱい! 毎度毎度のことながらどうしてそんなツンツンしているんですか! この間みたいにきちんとデレましょうよ! そうでないとまた会長が変な勘違いしちゃってこじれちゃいますよ! あたしはね、思ってるんですよ! 勘違いこそこの世の中で最たる悪であり、人生の中で最も勿体なくて、することに利点が存在しない行為だって!」

『お前にだけは言われたくないぞミリア!』

 本来なら相反する2人だが、このときだけは同時にサンドイッチするように突っ込んだ。さすがにこれは看過できなかったのか、ミリアの顔に驚きの影が訪れる。


「ええ!? 何でですか!? あたしなんかおかしなこと言いました!?」

「すべてがおかしすぎる! お前勘違いがどんな意味だか知っているのか!」

 ヴァンの突っ込みにミリアは疑問符をたくさん浮かべた。当然実態としてあるわけではないが、少なくともグレイにはそう見えた。

「知ってますよ! 勘違いとは即ち思い違い、事実と違った認識をしてしまうことを指すんでしょう!」

「それは……間違いではないな」

「例えば会長の言っていることをそのまま受けてしまって、悪の権化であると思ってしまうところとか! せんぱいの会長に対する暴力を、そのまま憎しみと恨みを込めたものであると解釈することとか! これが勘違いの最有力な例でしょう!」

「お前実は分かってて言っているだろう!? それは勘違いではない! それは真実というのだ!」

 叫ぶヴァン、嘆くように天を仰ぐミリア。

「またツンデレが! 会長たまには勘弁してくださいよ! 突っ込み役に回る人の気持ちを理解してくださいよ!」

「お前が突っ込み役を語るなぁあ! 突っ込み役は俺だぁぁぁあ!!」

 いや、お前も大概だろ。とグレイは突っ込みたかった。だがミリアに苦しめられてるヴァンは正直痛快だったので、黙っていた。


「会長が突っ込み役とか素晴らしい冗談ですね! 今度忘年会とかで誰かに披露してもいいですか? おもしろネタ帳にメモしていいですか?」

「茶化すな! こちとらマジで言ってるんだ!」

怒るヴァン。笑うミリア。正反対の絵が出来上がる。

「まっさか! 会長、突っ込み役ってどんな人か分かりますか? ボケに値する発言をそのままにせず、拾って話を展開してくれる! 言っていることを無視しないでいてくれる! 愛を持っている人のこと言うんですよ! それはつまりせんぱいみたいな人を指すんですよ!」

「グレイが突っ込み役であることは俺も認めよう! だがミリア! 俺とお前ならば俺が突っ込み役だ! それは譲らんぞ!」

「会長が皆に対して自分が悪であるかのように宣言する! これぞ盛大なボケ! あたしはそれを拾い正す! これぞ突っ込みの典型! ほら! あたしが突っ込み役じゃないですか!」


 さらなる反論をしようとするヴァンの肩にグレイの手が置かれた。そしてヴァンの視線を受けるなり首を横に振る。

「お前の負けだ諦めろ。ミリアには勝てん」

 という意味が多分に含まれているのをヴァンも感じ取った。

「……グレイ、時折思うのだが何故俺はミリアを陣営に加えたんだろうか……能力については文句ないが、この性格がすべてを負の方向にけん引していると思うのだが」

「ほかに候補者いなかったからだろ。そもそも俺やお前だって誰も候補がいなかったから受かったようなものだし」


 今年の生徒会選挙は異常だったのだ。

 理由は簡単、候補者が誰もいなかった。

 元々生徒会に興味関心が薄かったのはあるが、これは異常だと教員たちも嘆いていた。そんな中ヴァンが会長に立候補したため、ろくに審査もせず、所信表明すらさせず、投票も○か×かを書かせるだけの簡素なものが実施された。


 さらにもうこれ以上こじれるのは嫌だ、と教員が感じた性なのか、○を書く欄だけは巨大なものにしてあり、もう片方の欄は十分の一以下の大きさにしていた。それを教員の手伝いをしていたグレイが知り、「こいつはやばい」と駆け込んで立候補した。すると芋づる式にミリアも立候補した。これ幸いとばかりに他の2人も同様の処理を施したため、順当に生徒会は決定された。

 

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