4-② 王ではない! 魔王だ!

 挙手をして質問してくるミリア。その素直さは嬉しいながらも何と話すべきか、ヴァンは言葉の選別を始めた。

「そうだな……ミリア。考えてもみろ。お前に何の断りもなしにお前の家を掃除されたとする。お前はどう思う?」

「嬉しいじゃないですか! あたしとしては大助かりですよ!」

「もしそこで怪我したらどうよ?」

 グレイがそこから引き取った。そしてその質問はヴァンには満足を、ミリアには疑問をもたらした。


「え?」

「自宅の、自分のための作業で怪我をしたんなら誰も責めねえよ。でもそれがお前の住む家で、勝手に作業おっぱじめてそれで怪我したら誰が責任取るんだ?」

 優しく言い募るグレイに、ヴァンは大きく首を縦に振った。

 それは言いたいことを代弁してくれているグレイへの感謝でもあり、ミリアへの無言の教示でもあった。

「それは……」

「まあ指先に棘を指した、くらいならまだいいかもしれねえ。しかしそれが大怪我だったら大変だよな。後々の人生に関わるものなら、命の問題に直面するものだったら一体だれがどう責任を取ればいいのか、重大問題になっちまうよな?」

 それだけじゃない、グレイは新たな論調を展開してきた。


「ちと論点がズレちまうが、もしその行動を行う奴が悪意ある人魔だったら? そいつの財産を奪うために下見代わりに来たとしたら? そういう問題が起きる可能性もあるにはあるんだ」

「……反論できないです」

「だよな、だからこういう活動には届け出だったり、学校からの紹介等が必要になるわけさ。万が一のとき医療費等を支給する、簡易的な保険すら用意されている。だがこいつらはそれを完全無視している」

「それも名誉のために活動するなど愚かしい、というひどく個人的な理由からな。いやはや、模範とするべき姿だな。伝記でも書いてやろうかな?」

 暗に頼むとでも言いたいのだろう、ヴァンは一瞥をグレイに注いだ。しかしグレイはそれを煩わしそうに手で振り払った。


「俺は書かないぞ。書くとしたらお前の善行記録だけだからな」

「あれは即廃棄しろと言ったろう! 俺の言うことを効かない副官などクビにしてやるぞ!」

「できるかんなもん! 生徒会長は王様じゃねえんだよ!」

「王ではない! 魔王だ!」

 屁理屈を超えた戯言に、暴力で応じるという原始人的な回答をグレイは行った。席を立ち、蹴りと拳を連続でヴァンに叩きこむ。


「あーなんかすごく最近やってなかったせいか、久しぶりに感じるノリだな! お兄さん暴力おまけしちゃうぞ!」

「ききもしない暴力など無駄でしかないがな! まるでお前の日常のようだ!」

 しかしヴァンには全く効果絶無。服に埃や汚れが軽く付いただけであった。そしてそれが猶更ヴァンの嘲笑を呼ぶ。

「お前が言うかお前が! 自分の夢に向かって後ろ向きで大爆走しているお前が!」

「グレイ! ついにお前は俺の触れてはならない部分に触れてしまったようだな! 魔法が良いか肉体が良いか多数でやられるのが良いか好きな奴を選べ!」

「てめえが絶望する奴で頼むわ!」

「あーん、2人で盛り上がりまくらないでくださいよー! あたしも混ぜてくださいよー!」

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