第4話 妙な奴に気に入られたのはグレイ

4-① 洗剤を飲みこんでは無意味そのものだな

 ヴァンの偉業を称えた本の出版は寸前で食い止められた。

「健全な学生生活を過ごすためには有名になると叶わない」

「まだ自分は発展途上であるがゆえに、伝記のようなものを出版するわけにはいかない」

 という弁舌をヴァンが振るいまくったために、本の出版会社が広告を打つ寸前で止めたようだ。

 しかし最早話を無かったことには出来ないために即座の出版を行うことが出来るように、契約や既存原稿の受け渡しなどは既に済ましておいた。また新たなネタについては随時グレイから補給されることが約束された。

 それによりヴァンとグレイの口論と喧嘩は一時かなりの激しさを増したのは、言うまでもないことだが。


 ともあれそんないざこざを乗り越えて、再び生徒会活動を再開しようとしたとき、ようやく全員が思い出した。生徒会室が学校裏生徒会によって破壊されていたことを。

 つまりこの瞬間になるまで全員が裏生徒会など忘れていたのである。

 そのため臨時生徒会室ということで校庭の一角に掘っ立て小屋を作ってもらい、そこで校務を執り行うことにした。

「ふむ、突貫工事でつくった割にはさほど悪いところではないようだな」


 壁、天井こそ急増されたものゆえに、薄い木製の板を張り付けてあるだけのお粗末とさえいる部屋。だが机、椅子に関しては新品が配備されていた。傷も見当たらず、撫でると摩擦が感じられない、整備の行き届いたことが感じられる。

 配置状況は爆破された生徒会室とほぼ変わらない。コの字を描くようにして机と椅子が配置されている。そして今はその椅子にグレイとミリアが座っていた。

 せめて私たちにできることを、と教頭が言っていたのを、ヴァンはここに来て強く意識することになった。


「それであいつらが、裏生徒会とやらが何なのか、少しは調査できたのか?」

 臨時生徒会長席に着いたヴァンは左隣の机にいたグレイに尋ねた。

「バース達から一応報告書みたいなものを受け取ってるぜ。簡単なものだけどな。ついでに今も調査中だからここには来ないってよ」

 預かっていた報告書の束をグレイが掲げる。それに対してヴァンはうなずきを返した。

 それは了解の意を表すとともに、読み上げてくれという意志を含んだものであった。それが分かったグレイだからそれを読みあげ始めた。


 学校裏生徒会、それは完全無欠の謎に包まれた存在、という訳ではないが不明な点が多い集団でもあった。

 まず構成人数について、それは四天王と呼ばれる4人組のみらしい。つまり四天王とは幹部ではなく全構成員という意味であったのだ。もし追加人数があった場合、五天王や六天王とでも名乗っていただろう、とはバースの報告書に手書きで補足されていた。


 1人は先日生徒会室を爆破したキフドマ・キフエクツ。黒装束に姿を覆った人魚族の男ということが知られている。先日見たときには恐らく変化の簡易魔法でも付けていたのだろう。最も活動的で、様々なことに暗躍している。学校には来ているんだか来ていないんだか、それはよく分からないらしい。

 残りの3人に関しては断片的にしか分かっていなかった。

 魔族の女が1人、四天王筆頭と呼ばれる人族の男が1人いることは確認できているが、もう1人はどうしても分からなかったらしい。

 詳細不明(すまぬ)とわざわざ謝罪文が書かれていた。


 そしてこの集団は特別悪の存在という訳ではなかった。それどころか、行動だけで見るなら善行集団ではあった。

 近隣の海岸の清掃活動、ヴァルハラント学校の周辺の防犯活動、公共施設の行事に手伝いとしての参加、それらすべてを無償で行っている集団なのであった。

 ここまでは問題はないし、褒めてもらえる行為ではあった。だがあることによりすべてを帳消しにしてしまっている。

 それらは全て無認可で行われていることであった。


「どういうことですか?」

「受け取った報告にはよると……『四天王筆頭がひどく目立つこと、もう少し踏み込むなら名誉のために活動することを酷く嫌う。故に誰にも告げず良いと判断したことを即時実行する』だそうだ」

 はっ、ヴァンのあざける声が響いた。

「そいつは凄いな。清潔は見習うべきことだが、洗剤を飲みこんでは無意味そのものだな」

「皮肉が正しく機能しているかどうかは不明だが、その通りだな。こいつらは有難がられると同時に迷惑がられているようだし」

「はいはいはーい! 何でですかー? 積極的にいいことをしているんですよね? どうしてそれで迷惑がられるんですか?」

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