3-⑯ 俺はこんなことでしか差を埋められねえんだ!
「!」
突然伏せている状態から左手を下にするようにして、グレイは半分体を起こした。
故に打点もずれる。腹に当たることは当たったが、伸びきった攻撃は損害を大幅に減らした。
そして素早くキバの足に左腕を巻き付ける。
「んな!?」
「うおおおおおおおおおおおお!」
止めた脚の脛にグレイは思い切り右拳を打ち付けた。剥き出しに近い神経を直接叩く行為
「!!」
その上これは予想外であり計算外の一撃。衝撃を遥かに増幅させた。
「!」
効果あり、そう判断したグレイは第2撃、3撃、4撃と加えていく。
最初の一撃には程遠いが、人体の急所の1つを攻撃され効果0ということは無い。当然キバの脳みそを痛覚刺激で充満させる。
「はな、しやがれ……!」
グレイの腕を振りほどき、片膝を付くキバ。痛む脛を手で抑えこむ。
「この野郎……!」
怒りに燃える瞳を向けたとき、屈んだ顔目掛けグレイの蹴りが飛ぶ。
咄嗟に首を捻りかわすが完全ではない。
肩に当たりその勢いでキバは軽くふっ飛んだ。尻もちをつくようにして仰向けに軽く倒れる。
(破れかぶれだったが何とかなった……)
「……! ざっけんなこら!」
(でも一瞬か!)
腕で体を浮かし、下半身を稼働。数瞬で元の体勢に戻り、キバは襲い掛かってくる。
拳と脚、同時に飛んでくるのはありえない。
はずなのに、そう錯覚できるほど連撃が降ってくる。
「!」
上段、中段、下段を問わず向かってくるそれに対して、グレイは完全なる防御を放棄した。
しかし当たってはいけない場所への直撃を避けるため、体を前傾姿勢にして両腕で完全に顔面を覆う。腕による鎧戸を張った。
それとほぼ同時、グレイに敵意を含んだ四肢が着弾した。
防御の上から、拳が、掌底が、爪先が、踵がいくつも激突。
筋肉、血管が破裂、内出血を引き起こしていく。皮が裂け、肉が切れ、血が滲む。
「さっきから急所ばかり狙ってきやがってよ!」
防御を固めるとみて、一度連撃を止めて攻撃を溜める。腰を落とし下半身を安定させて、一撃を放つ。
「かわいげのねえ野郎だぜ!」
防御している腕に激突したそれはこれまでとは比較にならない破壊力だった。
「ぐぅ!」
骨の軋みを自らで感じるほどに強烈な一撃はグレイを後方へ引きずる。そしてさらにもう一度、打ち込んだのとは逆の手で打ってくる。
(急所ばかりを狙って攻撃する、か……へっ、その通りだ。みっともねえ戦い方だぜ……)
だがそうするしかなかった。
(俺が勝つためにはこうするしかねえんだからな)
卑怯な手を使う以外のいかなる手段でも勝利はおろか、勝負にすらならない。
グレイは先の戦闘でそう確信していた。まともに格闘戦をしたところで勝てるはずはないと。だがそれは敗北を希望することにはならず、諦めたくないという強烈な意思を誘発した。
(ヴァンみたいな運も力も魔力もない、バースみたいな身体力も格闘感覚もない、俺はこんなことでしか差を埋められねえんだ!)
「お前は! 一方的に!」
いくら叩いても効果なしと考えたキバはガードを切り崩す戦略に変えた。
下から上へ出す、左拳の突き上げ。アッパーカット。
変則した攻撃にグレイの対処は不可能、腕を上部へ跳ね上げられる。
「やられてればいいんだよ!」
振りかぶっての右大振り攻撃が発射される。軌道はグレイの顔目掛けてくる。
速度がかなりある一撃。比例関係にある破壊力。
(無理!)
それ故避けられない。防御も整えられない。
(だったら!)
だからグレイはそれをかわさず受ける。それも当たりやすい様に、突出させる。その場所は、額。
ガンっ!!
厚い骨で受けた衝撃は脳よりも腕の方がでかい。キバの右腕がしびれに襲われる。
「ぐおっ!」
「ぐがっ!」
最もグレイとて損傷はないわけではない。だが、それでもキバほど意識の集中を解いたわけではなかった。
怯んだ隙にグレイは突進、体を潜り込ませ、戦法を超接近戦と変化させる。
「おおおおおおおおおおおおお!」
そして先ほどのお返しとばかりに腹を叩く。両腕によって絶え間なく、息せき切らぬ連続攻撃を文字通り叩き込む。
「ぐっ! っぐ! っぐあ!」
1つ1つは重くない攻撃。
だが偶然か故意か、人体急所の1つである鳩尾に完全に入ってくる。それは横隔膜の運動を停止、一時的な呼吸困難を誘発させ疲れを加速させる。即効性の腹打ちの衝撃が着々と蓄積され、キバの苦悶の顔が徐々に、濃くなる。
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