3-⑫ あんた思いのほか悪党だな
「あーあー、遂にこうなっちまったか」
一部始終を見ていたバースは一息漏らしながら背もたれに身を預けた。そして首だけ動かしてヴァンを見やる。
「生徒会長さんよ、一体何のためにこんなことを? あんたが何をしたいのか、俺は分からないぜ?」
「はてさて何が言いたいのやら、私には分からんなぁ?」
意地が悪いと漏らしながらバースは続けた。
「あんたは分かっていたはずだ。キバは恋人がいないことを酷く気に病んでいた。あんたもその片鱗くらいは先日見ただろうしな。そんなキバがあの二人を見ていたらどうなるか、分かり切っていたはずだ。暴走することくらい。それなのに何であんなことを?」
正直ヴァンとしてはまだ空っとぼけていたかった。正直に白状するのが性にあわなったからだ。しかしじっと見据えてくるバースの視線が、そして何よりヴァンの心中に確かにネタバレしたいという願望が存在していた。
「……そうだな、そろそろ明かすとするか。私のねらいは2人の激突、そして生徒会とお前たちの団結だ」
「団結?」
思わぬ単語が出てきたことに思わずバースはオウム返ししてしまった。そんな奇妙な表情をしているバースを見ながらヴァンは別方面からの話題を展開し始めた。
「この間の戦いの後、お前達は私に力を貸してくれると約束した。だが貸すのはあくまで私に対してなのだろう? ヴァルハラント生徒会や学校に対してではなく、あくまで私個人に対してなのだろう?」
それでおおよそが腑に落ちたようだ。バースは納得を体で表現した。
「……そうだ。俺達は実力主義だ。だから上と認めたあんたには力を貸すだろう。後の2人は定かじゃない」
「だろう、乱暴ないい方となってしまうがこれでは私の私兵を手に入れたようなものだ。それではいかん、お前たちは生徒会に尽くしてもらわねばならん」
「だから副生徒会長さんの実力をその肌で見てもらおう、てわけかい?」
首を縦に振って肯定の意をヴァンは表した。
「恐らくグレイもキバも口で戦えと命じたところで従う筈はない。動機も利点もないのだから。だから2人が、少なくとも片方が戦うように仕向けることが必要だったわけだ」
「それだったからこれを見させたわけか」
バースが先に示すものは魔力映像中継器、今映っているのはグレイをキバが睨みつけながら、3人が無いやら準備をしているのが確認できる。それを軽くバースは叩きながら示した。
「いやはや、相変わらずの策士っぷり、見事だといっておこうかね。でもあんたの作戦、果たしてうまくいくかねえ?」
「何か不安材料でもあるというのか?」
「あるさ、おおありだ。もし2人が激突しても分かりあえない場合、どうするんだ? まさかあんたが前時代的に殴り合ってその末に友情が芽生える、だなんてことを期待してるんならさすがにそれはないぜ。あんなのは殴り合いに夢見すぎ。そんときはどうするんだ?」
ヴァンはバースのその心配を杞憂と処理した様だ。その証拠にその顔に薄笑いが浮かんだからだ。
「不要な心配だ。グレイは欠点だらけな男だが、大きな魅力も持っているやつだ。それを知ればキバもある程度は認めるだろうよ」
「それは信頼かい?」
「信頼ではない、事実だ。たとえどんなダメ人間だろうと光り輝くものを1つは持っているという、実例よ」
取りようにとっては悪口にも聞こえるが、それに関してバースは突っ込まなかった。代替のことは行ったが。
「で、本音は?」
「グレイをからかうつもりで設置した魔力映像だったのに思いのほか真剣すぎたから面白くなくてキバ辺りにでもボコられてほしいと思ったから」
包み隠さず本音を話すヴァンにバースは思わず失笑した。それでも足りず、笑いがこぼれていく。
「生徒会長さん……あんた思いのほか悪党だな」
「ありがとう、最っ高のほめ言葉だ。繰り返し聞くために録音したいくらいのものだよ」
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