3-⑦ だけど誰しも愛されないと歪んじまうんだよ
そしてそんな感謝を天は裏切っていた。
音声含めて全てのやりとりをヴァンは見ていたのだ。
「……喜劇、茶番、笑劇、滑稽、一体どのような言葉がこれに当てはまるだろうか。貧しき知識しか持たぬ私めに教えてくれないか。バースよ」
「あんたに分からないことが俺に分かるわけないじゃないか。ただ言えることは爆発しろこの野郎どもってことくらいしか言えないよ」
「爆発は困るな。この部屋は学校の予算でつくられたもの。壊したりすれば弁償金が発生するだろう。ここでの爆発は望ましくない。もし爆発するなら誰も巻き込まない、それに加えて死ぬのはさすがに後味が悪いので、適度な爆発によって軽度のやけどを負って不幸を噛みしめろといいたいな」
「生徒会長さん、あんたももしかして結構天然入ってるのか? 今俺が言ったことは例えであって、現実に起きてほしいわけじゃないんだぞ? しかしまあそんなことよりもだ……」
1つ咳払いをして、バースは辺りを見渡す。
「何で俺達をこんなところに連れて来たんだ?」
バースがそう疑問を口にするのも当然だった。ヴァンとバースと三連牙がいるのは生徒会室のすぐ上の階にある会長室(ヴァンの自作)なのだ。上級魔法の応用によって空間を作り出した空間にいくつか器具を運び込んだのだ。
そこまで広い部屋ではない、細長い木の机によって部屋の6割は占有されている上に、2種族共同製作、
それに今は5人もいる。すし詰め状態と言わないまでも、狭いのは間違いない。
「有無を言わさず押し込んだことは謝ろう。だがこれはどうしても必要なこと。あなた方にはここにいてもらいたい」
「……俺達が動力源だからか?」
これまで沈黙を通してきていた三連牙だが、恨みがましい視線と声を飛ばしてくる。その全員とも映像中継機の動力源を握って魔力を供給している。
魔力映像中継機は離れたところの映像を映すことが出来ること、音声も受け取ることができること、そして何より大規模過ぎない大きさが評価された。ただその誇りは一際狭いこの部屋では発揮しているとはいいがたいが。
ともあれ長所は大きかったが、ある一点の短所が大きすぎたため、この科学の結晶は量産体制が取れなかった。
その短所とはずばり燃費だ。映像を流すために魔力を使用するが、それがかなりの量を使う。常にある程度の魔力を供給していなければ機能しないため『我々の手には余る』と人族、魔族から総評されてしまった。そして世の中からは消えていった。
しかしそれ以外に関して言えば科学技術の粋とも言えるこれは、一部の物好きなもの達の間に出回っている。魔力動力源をなんとかして使っているものもいて、ヴァンもその一人なのだ。
「無論それもあるが、より大事なものもある。だからあなた方にも見ていて欲しいのだ」
「何を好き好んで他人のいちゃつきを見にゃならんのじゃ!」
とキバは吠えた。吠えつつもバースに見せるためなのか、魔力の補給は怠っていない。
「いいか! 俺は俺に対してデレてくれるおっぱいの大きい女の子のエッチな姿ならいくらでも見ていたいし、見ているだろう! でも他人のラブラブしている様なんざ見たくもねえんだよ!」
「俺は多少離れてくれた方がいいかな。四六時中ずっとベタベタされるのは、正直重い。恋人にしてもある程度の距離はもって然るべきだろ」
「皆の意見はそれぞれいいと思うが子供が一番至高じゃないか? 若いとはつまり力がある。さらに言うなら未来がある、今が気に入らなくても未来において自分好みに育てることだって出来るんだぞ?」
唐突に性癖暴露大会の幕が上がり、そこにキバット、キバンカすら加わった。
そんなキバンカの発言に思うところがあったのか、キバが絡んできた。
「理屈で着飾るなよ! 若い奴が好き、要するにはお前がロリコンです、ていう話なだけじゃねーか!」
「ば、馬鹿なことを言うな! 俺はロリコンではない! 世の中は日進月歩でありながら、変わらぬものもまたいいものがあると言いたいのだ!」
「はい破綻! 先程お前は若さとは未来であると言った。未来とは即ち白紙であり変化する代名詞とさえ言えるもの! しかし今のお前は『変わらぬものもまたいいものがある』と主張した! これら2つは明らかに矛盾している! つまりお前は心にも無いことを話していたわけだ!」
「し、しまった!」
3人組の男子高校生的であるように見えて男子高校生的ではない会話に追いていけず、ヴァンはバースを凝視することにした。
「……」
助け船を求める様に、代役としての突っ込み役を求める様に。その当人のバースは視線を振り払う様に、手を降った。
「何も言わないでくれ生徒会長さん。こいつらも根はいい奴なんだ。だけど誰しも愛されないと歪んじまうんだよ」
「……切実だな」
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