3-③ もし言ったのなら何でもしますよ!
「せんぱい……」
照れをごまかすように頭をかくグレイ。最もそれで気分が変わるわけではなかった。
「この間のヴァンにはやられたぜ。確かに俺はお前に対してほとんど話していなかった。みっともねえ話だよな」
苦笑いが浮かんだがそれはやがて引っ込んだ。
代わりに出て来たのは真剣な表情。
グレイとの日々をよく記憶しているミリアであったが、これほどのまじめさに溢れた顔はついぞ記憶になかった。
「ミリア、俺もこれからはお前に色々話していきたい。楽しい話が出来るかと言ったらたぶん出来ないと思うけど、大したことない、くだらない話しかできないかもしれないけど……俺はそうしたいんだ……ミリアは嫌か? 嫌なら無理にとは」
「嫌だなんて! 欠片もありません! あたしはむしろせんぱいに話して欲しかったです! 些細なことだっていいんです! 怖い夢を見たとか! 空がきれいだったとか! そんな小さなことでも、せんぱいとあたしの思いを共有出来たら、それがあたしにとって嬉しいんです!」
全てまで言わさなかったのは、ミリアの頭から冷静な判断が失われていたからでもあるが、何より自分の本心を聞いて欲しかったからだ。
そして理屈を超えた本音は時として、何ものにも勝る。いかなる論理、事実、巧言令色もそこに及ばない。
だからグレイは嬉しさで胸がいっぱいになり。それが赤面という表情を形作った。
「あ、ありがとうな……」
「じゃあせんぱい早速話してください! 何かあったんですか? 昨日の夜寝るまでに何か一悶着あったとか? 学校来るまでの間に珍しい物でも見つけましたか? それとも授業中に先生が何か馬鹿な話でもしたんですか?」
我が意を得たとばかり、連続の質問攻めをし始める。それに対応しきれないため、一瞬たじろぐグレイ。だが、そこで止まると言う選択肢を取るのではなく、話題の転換をするという選択をする辺り、進歩は見て取れるといえるだろう。
「そ、それよりもだ。今度の休日お前はどこに行きたいんだ。待ち合わせについては俺がわがまま言うんだったら、行きたいことはお前がわがまま言ってくれ」
「それを迷っちゃってるんですよねえ……」
珍しく曖昧な返し方をするミリア。グレイにしてみても珍しいため思わず軽く目を見張った。
「私としてはおいしいご飯を食べたい! のんびりと日向ぼっこをしていたい! でも一番はせんぱいと一緒にいたいんですよねー」
臆面もなく言ってのけるミリアに、グレイは再び血液が顔に流れるのを感じた。
だがミリアはそれに気付くことなく続けていく。
「だから私はこの至上命題だけは譲れません! 逆にいえばこれさえ守ってくれればどこでも行けますし行きます! 例え地の底だろうとこの世の果てだろうと、どこへでもこのミリア・ヴァレスティンついていきます!」
一番嬉しくて最も対応に困る答えにグレイは内心を複雑に変化させた。そしてそれはミリアも気が付いた。
「ん?もしかして『何でもいいって言うけど、トンチンカンなところに行ったら失望されるな~』とか思ってませんか?」
グレイは言語化した答えを提出しなかったが、代替として表情の変化を行った。そしてそれはミリアの脳内で肯定と解釈された。
そのためミリアは自分の胸を叩いた。自信と保証を顕示するかのように。
「安心してください。その点は一切ありません。あたしはそんなこと絶対言いません! もし言ったのなら何でもしますよ! 大切なもの全てせんぱいに差し出しても構いません!」
「そういう発言は誤解を招くからしねえ方がいいと思うぞ」
「何でですか? あたしは今まで貯めてきた銅貨貯金を全て出したり、集めていた笑い話一覧を渡すだけですよ? それなのに誤解されちゃうんですか?」
もしミリアが小悪魔的な性格の持ち主であったのならば、これはグレイのはたらいてしまった想像力をからかっていただろう。文面だけならそう見える。
しかしこれまでのミリアの言動や行動、そして現在浮かべている表情を見るにそれは無い。その様に誰しもが判断出来たし、付き合いの長いグレイなら尚更であった。
(……全く理解できていないなこりゃ)
思わずグレイ内心で呟いた。そして補足がいるとも。
今言わないでいるとグレイにとって後悔の念になるかもしれない、だからグレイは言葉を継ぎ足すことにした。
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