2-⑳ なら打つべき手は……
戦闘開始の合図とともに、バースの両手に簡易魔法が宿る。風の簡易魔法。
風が砂、埃、木の葉を巻き上げて渦巻くのが目に見えて確認できる。
「まずは小手調べから、だな!」
簡単な竜巻と化した風の塊を飛ばしてくる。目指すはヴァンの顔面。
だが、それはあっさりとヴァンの手に宿る防御魔法で弾かれた。
上空へと進路を変更されて、やがてシャボン玉の様に破裂していく。
「魔法、できるのではないか」
「不得意とは言ったが……」
言いつつ魔力の操作を行う。魔力が風に変換し、再び小規模な暴風を形成する。
「出来ないとは言ってないぜ!」
またか、とヴァンは口の中だけで呟き再び魔力を手の中にためる。
「かかれ!」
風の球が空中に放り、そして顔面蹴りのように足で蹴り飛ばす。速さこそ速くなるが、それだけだ。防ぐことも簡単だ。
(意外に芸のない――)
冷静に防御魔法を貼る。そして突き出す。
(!)
風球が軌跡を変えた。
急停止、急降下を瞬時にこなす。
完全に物理法則を無視した動きにヴァンも対応しきれなかった。
ボウッ!
地面にと触れた刹那、噴出した大地と小石と砂が、噴煙となって視界を覆っていく。これまで多色だった世界が、砂一色になる。
(こっちが本命か!)
防御魔法では対処しきれない視界の占拠。落下する小石の音から聴覚も十二分な機能を果たせなくなる。
間違いなく静観は事態の悪化を招く。
そう判断したヴァンはがむしゃらに走り出した。煙を突っ切りここから脱出をはかる。
「っほっ……!」
口をマントの両端で覆いながら、進行する。この簡易防塵でも完全に防ぐまでに至らない。一息つく度に肺胞を砂で汚染されているような錯覚を覚える。
「ふう……!」
砂をかき分け脱出を果たす。青い空と遠巻きに見ていた観客がまた見える。
「逃さねえぜ!」
ほぼ同じ方向、ヴァンが地面に足を付けていたのに対してバースは空中という違いはあるものの、から飛び出してくる。
「おらあ!」
回転しての右足蹴り、ヴァンの頭を狙ってくる。
「!」
頭を反らし右腕の甲で防ぐ。
共に来るしびれ。
(防御してこれか!)
感嘆を禁じ得なかったが、そんな時間は無かった。
バースは空中でヴァンの手の甲を踏み台に逆回転を開始。再度回し蹴りを放ってくる。
まずは左足。
強襲したそれはヴァンの右手をはじき飛ばし、防御機能を無くす。
次いで右足。
踵を叩き付けるような一撃は、ヴァンのほほを捕らえ蹴り飛ばした。
「ぐっ!」
ヴァンが飛ぶ――バースに蹴りによるものと自分の意志で。
横っ飛びに移行しかかっていたため直撃はしなかった。
だが軽傷でもない。口から血がわずかながら飛び出す。
「ヴァン!」
「会長!」
2人の心配そうにする声にヴァンは前転で応えた。
勢いを殺さずに距離を稼ぐために行ったそれにより、体勢を整える。そして向き直る。
「!」
風の球が目の前に来ていた。比喩表現ではなく、本当に
回避出来ず着弾、風が展開、体を拘束。
この過程を一瞬で行った。だから追撃もすぐに来た。
「くらいな!」
ヴァンに向かって後ろ回し蹴り。単純な二足歩行生物が行う格闘技の中で最強の一撃。
「ふっ!」
ヴァンの足が地面を叩く。伝わる練り上げた簡易魔法が広がる。
地の一部にそれが集中して凸を作り出す。簡素な土の塊が地面からバースめがけて飛び出す。
「ぐっ!」
伸びた大地の柱が回転していたバースの背中を叩く。損害になるほどのものではないが、呼吸、集中力、動きを僅かながら止める。
(それで十分――!)
次の簡易魔法を構築しきり、放出。バースの魔法を中和させて即座に距離を取る。
さすがに追撃は無理と判断したバースもそれを見送った。地面に着地して、再び戦闘態勢を取る。
「あいつバースさんの連撃をかわしたぞ……」
「伊達に生徒会長してないって訳か……」
畏敬の声があちこちから上がってくる。
しかし誰よりもその念が籠もっているのは、バースだった。両手を広げて叩く、ひときわ大きい拍手をする。
「やるねえ生徒会長さん。俺の攻撃をかわしきったのは最近覚えがないぜ」
「それは、どうも……」
もごもごと口を動かし、血を吐き捨てるヴァン。口の中をかなり深く切ったのか、血の量は思った以上に多い。
「ただいくら避けていてもよ、攻撃してこないんじゃ俺は倒せないぜ? 攻撃、してきていいんだぜ?」
手を空に向けて、手首を返す。いわゆる「おいでおいで」の格好をして挑発している。
それにヴァンは乗ってこない。
(冗談ではない。ここまでの強さとは……)
足を使った攻撃の重さ、体を動かす迅さ、連続攻撃の速さ、どれをとっても完成されている。同年代どころか世代を超えても通じる力を感じる。
「どうした生徒会長さんよ。来いよ? 来ないならこっちから行くぞ?」
たんたんと一定の規則を付けて跳び跳ね始める。いつでも行ける、という言葉を受け止めたような気になった。
(真正面からの格闘では向こうが圧倒的に有利、その上小技を連続で出してくることにより、距離の問題を消している。遠近どちらも完全に対応しきっている。長期戦は不利か……なら打つべき手は……)
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