2ー⑰ ……なんと出来のいい菓子だ
その間キバンカはずっとヴァンを凝視していた。それを真っ向から受けとめていたヴァンであったが、ややあって口を開いた。
「向こうは向こうで盛り上がっているようだから、お邪魔虫はお邪魔虫同士で仲良くしよう、とでも言いたいのかな? それとも先ほどのお礼として菓子折でも持ってきてくれたのかな? 私は甘いものもいけるぞ」
冷笑、皮肉、嘲り。これら全てが今のヴァンに詰められていた。この態度は不愉快さを呼び起こさずにはいられない。しかし2人ともそれに釣られなかった。
ハリネズミ型獣人、キバンカが一歩前に出てヴァンの眼前に立ち尽くした。
「単刀直入に言おう。お前、さっきの挑戦取り消せ。今ならバースさんの失望も少なくてすむ」
「……なんと出来のいい菓子だ。甘さも味もしない。これはさぞ健康に気を遣ったものに違いない」
「皮肉を言っている場合か!」
机を叩いてキバットが迫ってくる。竜人らしい力強さのため、かなりの爆音が部屋中に響いた。
「あんたがどういうつもりでバースさんに喧嘩売ったのか、俺たちには分からないし分かるつもりもない」
だが、とキバットが続ける。
「あんたは今自分がしていることを全く分かっていない。バースさんに喧嘩売るってことは、お前は最強に挑もうっていうことなんだぞ!」
「お前の実力はどの程度か知らんが、バースさんには勝てない。あの人はこの学校の先輩、他地区の奴ら、そして教師であろうが喧嘩してきて負け無しだ。倒れたことはあるが、その度に立ち上がり相手をぶっ飛ばしてきた。気絶したことすら見たことない」
「ここ最近はあんまり戦う姿を見ていないが逆に不安だ。その分鬱憤が貯まっているはずだ。それをお前が一心に受ければどうなるか。死ぬことすら起きる」
「お前が死ぬのは自由だが、バースさんが殺人犯になるのは俺には耐えられん。だからお前が挑戦を取り下げてくれればそれが一番いいんだ」
キバットとキバンカ。交互に喋り足していくためにヴァンの耳は多少忙しかった。
それを見てまだ押しが足りないと判断したのか、キバットはさらに身を乗り出して訴えてきた。
「言いにくいって言うんなら俺が仲介役をやってもいい。だから手を引いてくれ。このままだとお前本当に死ぬぞ」
「俺からも頼む。このままバースさんを静かに卒業まで送らせてくれ」
ここで2人から途切れた。返答待ちであることを現しているのだろう。
ヴァンが最初の返事は嘆息だった。そしてそこから始めた。
「だ、そうだ。忠誠心溢れる部下をもって羨ましい限りだ。グレイにも見習って欲しいくらいだぞ」
一体ヴァンは誰に言ったのか、2人には一瞬判別がつかなかった。しかしそれも数瞬、すぐに疑問は氷解した。
「それも時によるな。一面での正しさは絶対的な正義ではないからな」
2人が驚いて振り返った先には狼型の人、バースがいたからだ。
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