2-⑯ 伝説ののぞき穴の場所も知っているのか!?
屋上でグレイがぶつかったときとほぼ同じ。扉の前にグレイがいて、その取っ手口が股関節に近い場所にあること。
唯一違う点、先のときはグレイが扉に対して後ろ向きだった。
今はグレイが前向きだと言うことだ。
ということはぶつかるところはどこか。
「!!!」
男なら絶対にぶつけたくないところにぶつかるということだ。
(……今度改装してここ引き戸にしよう……)
「…………………」
先ほどと全く同じような表情と動作と声をもってグレイは倒れ伏した。
「またかよぉ!」
(恐らくそれを一番言いたいのはグレイなのだろうが)
絶望した叫びを上げるのは竜型人。屋上の事故のほぼ再現となってしまった。
局所という一番当たりたくないところに当たったという違いはあるが。
「せんぱい! 気を確かに! 今治癒魔法をかけますから!」
簡易魔法を即座に構築、自然治癒を促進する魔法を手に宿し、グレイの患部を触ろうとしたとき、ミリアは気付いた。そこがどこなのか、一体何を意味しているのか。
一瞬で顔が真っ赤に染まる。
「あ、あのせんぱい……あたし触ってもいいんでしょうか……? その、せんぱいの……せんぱいの……せんぱいを……」
「あ……ああ……」
果たして肯定の意味だったのか、それともうめき声だったのか。それはグレイ当人ですら分からなかったのかもしれない。痛みで思考が麻痺している。
当然ミリアも一瞬当惑する。しかし即断即決を旨としているミリアは、それを許可の返事とした。
「分かりました! このミリア覚悟決めます! 下手な言い訳などせずに堂々とせんぱいのせんぱいを触り、その先の未来の扉を開けることにします! せんぱい! あたしの将来をせんぱいにあげるんで、せんぱいの将来をあたしにください!」
「はいはいはいはいはーい、邪魔だからどいてねー!」
ミリアの声高らかな決意を全く踏みにじるようにして男達が入場してきた。しかもわざわざグレイとミリアの間を通るようにして。
人族が1人、ハリネズミ型の獣人と竜人が1人ずつの合計3人だ。
そしてヴァンは即座に気付いた。全員先ほど、屋上でバースの側にいた男達であることに。
「お前達は……」
が、そこまでだった。
姿形は覚えていても、名前が思い当たらなかったからだ。
そこに思い至ったらしく、人族の男が一歩前に踏み出た。そして自らに親指を立てて指す。
「そういや自己紹介してなかったな。俺の名はキバだ、キバ・ワーウー!」
「キバット・ソー」と言ったのは竜人の男。
「キバンカ・クイッター」とハリネズミの男。
「全てを切り裂く武力の刃、ヴァルハラントの
格好を付けて主張するキバ、その後ろの2人は反応しなかった。
片方は呆れた様に頭を抱えている。もう片方はグレイに対して申し訳なさそうな視線を向けていた。
「ヴァルハラントの三連牙……ミリア聞いたことあるか?」
「いえ無いです」
グレイの治療を終えたミリアは一切の別解釈が入る余地のない否定をした。だが、それがキバの逆鱗に触れたようだ、一気に顔を赤くして迫ってくる。
「んだと!お前モグリなんじゃないか!バースさんには負けるけど、その次に学校で有名な俺たちのことを知らないなんて!」
「失礼なこと言わないでください!あたしはこの学校の色んなことを把握しています!例えば先生方の喫煙の場所だってあたしは把握しています!ばれてないつもりでも、他の生徒は気付いていなくても私は知ってます!」
「何!? ならば女子更衣室を覗けることができるという、伝説ののぞき穴の場所も知っているのか!?」
「そんなもんあるわけ無いだろ!」
「知ってるけど教えません! そこはせんぱいに見てもらう予定ですから! あなたなんかに教える場所じゃありません!」
立ち直ったグレイの突っ込みとほぼ同時に、ミリアの解答が出てきたため一瞬突っ込みが遅れた。また内容も混沌としていたため、精彩も欠いた。
「え、あるの!? って俺!? しかもなんでそれを教えるの!?」
「それはあたしが着替えているところを是非ともせんぱいに覗いて欲しいからそのときまで取っておこう、っていわせないでくださいよ恥ずかしいです!」
グレイの体を軽く叩きながらミリアは身をよじってくる。端から見るといちゃついているようにしか見えない。
そしてそれはキバの怒りの琴線を、五指で触れるに等しいものであった。
嫉妬に狂える拳と拳を打ち付ける。
「おいキバットこいつら途端にいちゃつきだしたんだけど殺していいよな恋人持ちなんていうクソ野郎は殺しても問題ないという法律が1年数ヶ月前に俺の脳内で満場一致で成立しているから袋だたきにしても後世に至るまで一向に誰からも後ろ指を指されることはないはずなんだけどそれに関してはお前の意見が入ることは一切ないから俺の自由意志で動いて暴力暴行暴虐を尽くすことにするからお前はどうするんだ加勢すると言うんだったら俺は一切合切止めることはしないしむしろ大歓迎なんだがお前が戦える部分があるかと言われたら疑問を感じる心が無くはないんだが」
「……好きにしろ」
キバに対する友情もあるが、さすがに2回も当ててしまったことからグレイに引け目を感じているのか、キバットは強く言わずヴァンの方に向き直った。
その間キバンカはずっとヴァンを凝視していた。それを真っ向から受けとめていたヴァンであったが、ややあって口を開いた。
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