2ー⑪ 気持ちよさそうだったなぁ!

 ヴァンとグレイが生徒会室に向かう道のりはそこまで長いものではないが、沈黙していたため長いものに感じられた。少なくともグレイにしてみるとそうだった。

 屋上から退出するまで、階段、廊下と続く道でお互い何も語ろうとはしない。

 いつまでも続くかに見えた静寂はグレイが破った。まだ痛む尻を擦りながらと間の抜けた光景だったが。


「屋上であんなことして、お前一体どういうつもりなんだ?」

 一瞬だけヴァンは何か考え込む仕草を見せ、その後答えを返した。

「どう、とは? あのようなことをする利点が何かと聞きたいのか? それならば単純にして明快だ。魔王となるためだ」

「どうやったら魔王になれるってんだよ? 俺にはさっぱりなんだが」

「そこまで複雑に考えるものではない。単純に考えてみろ、グレイ。バースは強い。だがもしそれを私が倒せばどうなるか?」

「……お前の方が強いってことになるな」


その通り、とヴァンは返して言葉を継いだ。

「バースでさえ恐れられている現状、それを超えるものが現れた。それは間違いなく恐怖を呼び起こす。生物は恐怖と同居出来ん。故に人々は私を恐れる……バースを恐れた時以上に。すると……魔王誕生という訳だ」

 くく、堪えきれなかったのだろうか笑いがヴァンの口から漏れる。

 だがグレイはヴァンとは全く違い、苦々しげだった。それはヴァンの行動もさることながら尻の痛みによる比重が大きいのもあるのだが。

「そう簡単に行くかねえ? また何か別解釈されるぞ? 俺としてはお前の考えがコケにされるのは嬉しいけど」


「行く。今度は行く。何故なら今回は恐怖という、生物の根幹的部分を刺激するものだ。これは多面的に解釈しようが悪でしかありえない」

「そりゃ恐れるかもしれんぜ? でもそもそもバースを超えた程度で魔王になれるか? 魔王ってのは魔力、武力共に秀でてるものだ。でも今回バースを倒したとしても、精々学校にいる怖く強い人、くらいの扱いしか受けないんじゃないのか?」

「そこは……否定しきれん」


 今度はヴァンが表情を歪めた。白く、整えられた歯を若干むき出しながら、いらだちを隠そうとしない。

「グレイ、お前の言うとおり今回の作戦は前回と比べて規模的には小さいし、見返りも低いだろう。だが仕方ないのだ。私としてはとにかく自らの被った名誉汚名を晴らさねば、生きているだけでも辛い状況なのだ……」

「一体何が辛いんだか。多くの人に認められて尊敬されているというのに」

「それが辛いと言うんだ。いい加減分かれ、グレイ。お前は私の副官であるはずなのに、ここまで手がかかるようではそれも考えなければならん」

「その台詞をそっくりそのまま返すぞ。何度も言うけど俺はお前の部下じゃなくて、腐れ縁の友人として見てるんだからな」


 そこまで言ったとき、ちょうど生徒会室に到着した。グレイは扉に手をかける。

「それによ「それにしても気持ちよさそうだったなぁ!グレイ!」」

 グレイをヴァンが再度遮ってきた。調子っぱずれた声量で。開けようとする手も自らの手をかぶせて止めてくる。

 必然それはグレイの訝しさを購入するに至る。


「は……?何の話しだ?」

「何の話しとは、お前もとぼけるな!夢中になりすぎて客観性を失ったか!」

「……?」

 ヴァンの言っていることに全く心当たりがなかったため、グレイは戸惑いを覚えた。しかも声の調子も話し方もどこかおかしい。まるで広報しているかのようだ。

 それは顔に現れていたのだろう。ヴァンは安心感を与えるようにグレイの肩に手をかける。

「なあ、お前一体何の話しをしているんだ?」

「ここに来てとぼけるとは……グレイ、お前が無理矢理女を手込めにした話ではないか!あれは気分良さそうだったな!」

 生徒会室のドアを開けながら言うヴァン。

 そこにはミリアが来ていた。

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