2ー⑫ 男は誰しもそういう風に言って話をごまかす

 思いもかけない情報を受けた時、人の対応は人それぞれだろう。

 涙を流し悲しみを表すもの、口を開け驚きを表現するもの、羞恥心を刺激され顔を真っ赤にするもの。


 ミリアはそれら全てだった。


 まるで重病の風邪にでもなったのではないかと言うくらい顔を真っ赤にし、ポロポロと顔から液体という液体を垂れ流しており。口腔は小刻みに震え続けている。

「……っ! ……っ!」

 普段の饒舌は休暇の旅に出掛けたのか、金魚の息づかいのように口をぱくぱくさせている。

 やっと言葉を紡ぐことが出来たのか、目を瞑りながらミリアは発した。


「せんぱい……ひどいです……」


「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て!!」


 これまでの人生の中で言ってきた『待て』を超えているのではないか、そう思えるくらいグレイは『待て』を連呼した。しかしそれとミリアの不安解消は比例関係にはなってくれなかったようだ。

 唇を噛みしめようとしているが、嗚咽をこらえられない。幾筋もの涙が後から後からこぼれてくる。拭うこともしていないため、鼻水もズルズルとたれてきている。


 まさに号泣。


 絵に描いたような光景にグレイもためらいを覚えなくもない。だがそんなことに構っていられない。ミリアの目の前に立ち、肩をつかんで訴え始める。


「ミリア頼む! 俺の話を聞いてくれ! 誤解だ! 俺はそんなことしてねえ!」

「……男は誰しもそういう風に言って話をごまかす、て雑誌に書いてありましたけど本当なんですね……」

(どこの誰がんなこと書きやがったこの野郎!)


 顔も知らぬ人に殺意を飛ばしつつ、グレイは次の手を考えるのを止めなかった。

 この手の有り触れたことを言っても無駄ならば、全く想像出来ない言い回しをすればいい。

 さらにその効果を高めるために、これまでとは違う態度も必要であろう。

 つまり女性が好む(恐らく可能性の上では)顔と態度で行くべき

 自分が考えられる最上級のキザっぽい顔をしつつ


「ミリア、過去の俺と幻想の俺のズレがお前の心を凍てつかせてしまったみたいだ。それを溶かす陽光となりたいから俺の唇の動きを目に、耳に届けさせてくれ」


 ぶふーっ!!

 盛大にヴァンが失笑した。グレイは分かってはいたけど赤面するのを止められなかった。

「お、お前そんな意味不明な言い回しが似合うと思っているのか……」

「うるせえ! お前に話しちゃいねえよ! そもそも誰のせいでこうなった!」


「お前の責任だな。お前が無理矢理襲ったのが原因だろう」

「無理矢理襲った!」

 悲痛な叫びを上げるミリア。それに釣られるように大きく笑うヴァン。


「ああ、そして気持ちよさそうにしていたぞ」

「気持ちよさそうにしていた!」

 悲壮な叫びをあげるミリア。それに(以下同文)


「そして悲しそうだった。恐らくミリアを裏切ってしまった悲しみもあったのだろうが、肉欲に勝てなかったのだろう」

「勝てなかった!」

「いい加減にしろやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

幾度も繰り返されるおふざけにグレイは割り込んだ。最もミリアは真剣そのものであったが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る