2ー⑧ あなた方を裁きに来た

 転落防止用の柵が外周を全て覆っており、貯水槽がいくつも並んでいる。初めて学校内案内を受けたときに見た光景と大差ない、学校の屋上だった。

 数少ないそのときからの違いと言えば、そこにいる面々が当てはまる。人族、ハリネズミ型魔族、狼型魔族と木製の椅子が多数。本来ならどちらも屋上に存在しないものが、多数設置されている。だがそれを屋上のさらに一段上のところにガルフォードを設置したヴァンには言えないだろうが。

 それらが人為的に設置されているものであることは明白だった。そこに1人の獣人、狼型の人間が座っていた。制服の前を開けており、その下にあるシャツ越しでも分かる強靱な肉体が見られる。


(こいつか……)

「な、何だてめえは!」

 予期せぬヴァンの姿に人間の不良が絡んでくる。目の前に立ちふさがり睨みつけてくる。しかしヴァンは一顧だにしない。視線こそその不良に向いているが、思考の中にはほぼ入っていない。


「騒がないで頂きたいものだな。私の用があるのはあなた方の長なのだから。邪魔であるので早くどいてくれ」

「んだこらあ!」

 完全に相手にされていない雰囲気を察したのか、胸ぐらを掴み上げる。そこそこの身長体重を持つヴァンを簡単に上げる辺り力は相当なものだ。だがヴァンは全く意に介していない。


「……こいつ……!」

 そのとき気がついた、今自分が掴んでいるのが誰なのか、それが狼狽という表情となっていた。

「……放してもらえるだろうか?」

 それは願いというより命令、命令というより強制だった。口と同時にヴァンの手が男の手を払いのけていた。


 そしてその男を押しのけて、ゆっくりと歩を狼人の方へと進める。ハリネズミの不良がすぐ側にいたが、察したのか半歩から一歩ほど身を引いた。

 他の不良とは違い、その狼人は特別何の反応も示さなかったが、ヴァンが目の前に立ち続けていたために、やっと反応した。

 俯き気味だった顔を上げてヴァンの顔を見た。最もその目には何の力も宿ったようには見えなかったが。


「お初にお目にかかる。ヴァルハラント学校、不良どもの王バース・セイクリッドだな?」

 マントを後方へ手で押しやって、一礼するヴァン。礼節に乗っ取ったその作法に感心した、訳ではないだろうがそこで初めて口を開いた。


「……なんだいあんた?」

「ヴァン・グランハウンド。この学校の生徒会長だ」

「……ほう。ほうほうほう……」

 無気力が支配していた目に輝きが宿る様に見えたのはヴァンの気のせいではないのだろう、声もどこか張りが出たものであったからだ。


「今をときめく生徒会長様でしたか。これは失礼を。何せ無学なものですので。それでこのようなむさ苦しい所に何のご用で?」

 椅子から立ち上がり、一礼する。座っていたときには気がつかなかったがかなりの長身である。そこそこ高身長のヴァンを完全に見下ろす形となっている。

「しれたこと。あなた方を裁きに来た」

「裁く、ね……」

さらに表情が初めて付いた。唇がつり上がり、三日月を描く。

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