2ー⑥ その位置がちょうどいい
グレイの怒声を一笑に付し、ヴァンは言葉をつないだ。
「グレイ、私を何だと思っている? 魔王となる男、ヴァン・グランハウンドだぞ? 魔王となるものはそんなちんけな暴力を奮うものではない。今回やるのは……そう、力比べのようなものでしかない」
マントを一度返した腕で、グレイの両肩を掴んだ。そしてグレイの目を見て訴える。
その行為自体はグレイの内心を溶かしはしなかったが、若干の効果があるのは否めなかった。グレイの表情から厳しさが若干揺らぐのが見て取れる。
「私を信じろグレイ。今から行うことは無辜の人を傷つけることは無い。それは約束する」
「……」
「もしこの約束を違えるようなら、今この場で私は魔王になる夢をきっぱり捨ててもいいくらいだ。重ねて言う。私は誰かに理不尽な暴力を振るわない」
「……信じていいんだな?」
無言で頷いたヴァンの仕草、それはグレイの不信感を一応は拭った。一息深いため息をつくと同時、グレイは軽く肩を落とす。
「……分かった。信じる。信じてやるさ。それだけはしないって約束してくれるんなら、いい。今どくわ」
「いや、それには及ばん」
動こうとするグレイをヴァンが肩を掴んで止める。
「むしろどかないでくれ。その位置がちょうどいい」
へ?とグレイが応じた時とそれは同時だった。
「ごちゃごちゃうるせえぞ!」
開け放たれるドア。外側から不良の1人が開けてきたのだ。
グレイはドア付近にいる。
加えてここの入り口は不良側から押し出して開ける形式である。
ドアの取っ手はグレイの足の付け根よりも僅かながら高い位置にある。
これらから導き出される答えは何か。
「!!」
グレイのケツに、ドアの持ち手が、直撃する訳だ。
「……こっ!」
グレイとの付き合いは10年以上のヴァンにしてからが見たこともない表情。それも言語化できる範疇を遙かに超えているものだ。無理矢理一言でまとめるなら変顔とでもいおうか。
半開きとなった口から唾が飛ぶが、それだけで語るべきものは何一つ出てこない。
時間の流れがそこだけ遅くなったかのように、グレイはゆっくり地面に体から倒れ伏した。両手の仕事は尻をおさえる方に任していたため、体から倒れ込むようになったが。
「おっ……!! おおっ……!! ごっ……!」
尻を両手で押さえて、全身を痙攣させる。
意味不明なうめき声しか出てこない。言語化したのもかろうじて聞き取れたものだけだ。
汗の球が次々と浮かんできては、衣服に吸収されていく。衣服のない額などから出てきたものは1つの筋となり、グレイの顔を伝っていく。
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