2ー⑤ 『思っていた』に変える気か!

 ヴァンが向かっている場所、そこがどこなのかグレイは最初分からなかった。だが少しずつ心当たりがつくようになった。それはグレイにとっていぶかしさを、さらに戸惑いを増幅させていくものだった。

 行こうとしている場所に対して、確信を持てたときグレイは思わず歩調を早めた。やがてヴァンを追い抜き、立ちはだかった。

 その地点はヴァルハラント学校4階と5階をつなぐ階段、屋上へと通じるドアの前だった。


「どうしたグレイ? 行くぞ」

「おい待てよ」

 ヴァンが掴もうとしたノブの前に改めてグレイはその体で通せんぼする。目に確たる意志を宿したままで。

 そしてそれは特別ヴァンにとって驚きをもたらすことではなかった。当たり前、と言わんばかりにグレイを凝視している。


「ヴァン、お前何しようとしているんだ?」

「無論分かるだろ、お茶会をしに行くのだ」

「茶化すな」

「茶会だけにか」

 ヴァンは冷笑を以て応じる。最もその目元は全く笑っていなかったが。

グレイも同様であり、険しい顔を崩そうとはしない。

「いいか、ヴァン。ここは屋上、つまりは不良のたまり場だ」

「ああそうだな」


 ヴァルハラント学校にも不良、柄の悪い連中というのはいる。それも決して少なくない。学校故に、様々な性格のものが集うため、乱暴な奴らというのはどうしても発生するからだ。

 そのような不良達が毎日集まっていると噂されているのが屋上なのである。ここで集まってたむろしてその後夜の町に繰り出す、というのがグレイも聞いた噂であるが、実際に見たわけではない。実際にはどうなのかはグレイの知るところではない。。

 また同じく噂の範囲でしかないが、その数、質共に大多数精鋭であるため、教師陣ですら迂闊に手を出せないと言われている。


「そこに何の用があって行くっていうんだ」

 戦うとでも言うのか、とは口にしなかったが、それをヴァンは読み取ったのだろう、唇をつり上げて笑いを形作る。

「グレイ、お前が何を考えているのか、分かっているつもりだ。さらに言うなら俺はお前のその考えを実行するためにここに来ている。だから邪魔をしないでくれ」

「そいつは違うだろ!」

 グレイの声量とは裏腹に涼しい顔を以て応じるヴァン。かつての生徒会室で行われたことと同様であるが、現状は大きく違う。グレイの怒りの質が違うのだ。

「俺はお前がろくでもないクソ野郎だと知っているが、最後の一線は越えない野郎だと『思っている』。それを『思っていた』に変える気か!」


 グレイがヴァンを見捨てないのはこの点である。

 ヴァンが悪事をしようとするとき、無関係の人を巻き込むことや傷付けるようなことは行わない。過去を見てもそれは明らかだ。

 壊そうとしたのはガラスであり、盗撮魔を自首させた時は誰もいない時間を見計らって行った。

 このように行おうとするのはあくまで悪事であり、それにより大規模な被害を被る者はいないようにしている。それがあるため、グレイはヴァンを見捨てないで突っ込み役に回っているのである。

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