2ー④ 女子供の入り込む世界ではない

「果たしてそうかな? グレイ、お前も思ったことは無いか? 善人という評判のある人が悪事をした時、例えばごみを不法投棄しただけでも一気に心証が悪くなるというのは、あるのではないか? 普段からまじめで売っている人が、宿題を一度してこなかったと言うだけで『ああ、あの人本当は不真面目な人だったんだね』というような印象を持ったことはないか?」

「そいつは無くもないが……」


 そうだろう、と言いながらヴァンは続ける。

「人間とはそういうものだ。盛者必衰、世に出たものは必ず消える宿命を持つ。今俺は確かに善人として世の中に出現した。しかしそれは一時的なもの、しかも急造されたものだから、なおさらそれは崩れやすい。しかもそれは反動となってより負の印象となる。つまり魔王になれるのだ!」

 今度はグレイが頭を抱える番になった。ただグレイの場合は比喩表現でのものであったため、露骨に顔をしかめるだけで済ましたが。


「よし! これを実行に移す!」

 最適なものを見つけたのか、ヴァンは軽く紙を叩き、計画書を机の中に放り込む。鍵をしっかりかけるのも忘れていない。

「さあグレイ早速行くぞ! この作戦には前もった準備等は不要、しかし速さは必要。故に今から行動する!」

 立ち上がりマントを翻すヴァン。普段は全身を覆うマントを完全背に回しているため、行動に重点を置いているのが分かる。


「おいおいおい、待てよ。ミリアがまだ来てないぜ?」

「来なくていい、いや、むしろ来させてはダメだ」

「どういうこった?」


 ヴァンの言い方に引っかかるものを感じたグレイの声の抑揚が変わる。むろん険しい方に。

 ヴァンはそれに気付いていたが、それをくみ取ることはせず自らの言いたいことを続ける。

「女子供の入り込む世界ではない、ということよ」

「同じガキである奴が何言ってんだ」

 喧嘩腰なグレイだが、ヴァンはそれに乗ることはしなかった。しかし彼に対して説明を放棄していない辺り、結果的に見れば同一の行動であったが。


「言い方を変えてやろうか? 此度の計画は、愛するものを巻き込んで行うことではないということだ」

 ヴァンはそれを言うなり出て行ってしまった。

「おいヴァン待てよ!」

 抗議、困惑、感情のごった煮と化したグレイだが、その感情は全て心の奥底に沈めて、今はある一点のみを行ってヴァンの後を追った。

『ヴァンと2人で出かけてくる。そのまま生徒会室で待っててくれ』という書置きをミリアの机に残して。

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