2ー③ 俺へ! 俺に! 俺が! 俺を!

「うるせえぞ。たたでさえここは音漏れが激しいんだ。それに同じ部屋にいる人間のことを考えろ」

「これが叫ばずにいられるものか! グレイよ! 俺へ! 俺に! 俺が! 俺を!」

「述語を言え! そんなん分かるか!」

「人が来て! 声かけて! 認められて! 讃えられて!」

「いいことじゃないか」


 グレイの言っていることは一般常識であり、多くの人間に相通じる理屈である。

 そしてそれがヴァンをイラつかせる。

「それは世間で相通じるもの! それを俺に当てはめるな! 俺は、辛いんだ! だから俺が聞きたいのは俺を魔王として崇める言葉以外は聞く気はない!」

「知ってるか、そういうのをわがままと言うんだ」

「知ってるわ! お前が知っていることを俺が知らないとでも思ったか! お前の頭脳と俺を一緒にするな!」

 ヴァンの一言がグレイの琴線を軽くだが触れた。眉が一瞬動く。

「そうですなぁ、ヴァン様の才能は到底私めの及ぶところではございませんからな」

 意地悪く形作られた笑み、そこから放たれた一言がさらに怒りを増加させる。


「世界をお救いした傑出した才能、有史の中でも屈指の英雄として刻まれて当然でしょうからな。非才の我が身には到底かないますまい」


「喧嘩売ってるのか貴様!」

 その顔に鬼のような形相が浮かぶ。グレイの顔も似たような雰囲気を持つ邪気に満ちた笑顔になる。

「まさか、褒めてんだよ」

「それを喧嘩売っているというんだ! よーし! パパ喧嘩買っちゃうぞー!」


 来るか、と覚悟してグレイは身構えるが、ヴァンはグレイの方には目も向けず、生徒会長机の方に向かい、そのまま他と比べて一段高い椅子に乱暴に腰掛ける。

「と言いたいがそれは次の作戦が終わった後だ! 覚えとけグレイ!」

「次の作戦って……また何か考えているのかよ?」

 当然だ、ヴァンは続ける。


「一度の失敗で諦めるのなら、最初からそんなもの抱いておらん。どんな偉人であれ、失敗は必ずする。しかしそれを乗り越えた先に栄光はあるのだからな!」

 積み上げられた手紙の群れを全て両手で抱え込む。そして収納空間が広い、一番下の引き出しにまとめて突っ込む。一旦収納する空間として最適なところだ。


 そしてその1つ上の引き出しを引き、紙の束を取り出す。

 その正体はグレイも見たことが無いが、ヴァンの魔王化計画がいくつも記されている計画書だ。


「それに逆を言えばこれは好機なのだ」

「好機?」


 グレイの返事にヴァンは顔を向けなかった。手に持った紙を忙しそうに何枚も何枚も捲っていく。しかし無視したわけではなかった。

「今確かに俺は信頼、善人として見られている。それは認めざるを得ない。しかしそれは薄氷のもの! 一度何か悪事を行えばその反動から即座に俺の信用は失墜! 即ち魔王となれる!」

「魔王となれるって……んなわけないだろ」

あまりにも過程がぶっこ抜けすぎているヴァンの理論にグレイは呆れた様な返事をした。

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