2ー② さすが会長!

 やがてヴァンの前に到達し

「すいませんコレ持ってきました……」

 観念した様に差し出された女の裸が書かれている本を差し出す。その表紙をヴァンは一瞥だけくれ、歩みを止めることはなかった。そのまま横を通り過ぎていった。


「お咎め無し……?」

「どういうこと?」


「つまりこれはあれだ! つまり俺がやったことは悪くなかったんだ! ヴァン会長は男に優しいんだ! いや、きっと女にも優しい! つまり全人魔に優しい!」

そういうことか! なるほど! という声が方々から上がる。

「今生徒手帳を見直して気付いたけど、『エロ本の類は持ってきてはいけない』とは書いてない! ヴァン会長はそれを知っていたんだ!だから取り締まらなかったんだ!」

「さすが会長! よく把握してるな!」

「それにそもそも性欲を否定してたら生物が繁栄することはなかった! 私が狭量だったわ! ヴァン会長はそれを私に教えてくれたのね!」

「出来る男は黙して背中で語るって言うけどほんとだな!」


 先ほどまでの批難は一体どこに飛ばしたのか、さすがにグレイですら突っ込みたくなったが、それは控えておいた。それよりもヴァンの方を見ることにした。


(さすがにちと可愛そうになってきたな……)


 人々から称賛、尊敬、憧憬の言葉の雨あられ。どこに行こうともそれらがやむことは無い。

(こいつにしてみるとナイフでもぶん投げられた方がまだマシなんだろうな……)


 グレイはヴァンとの付き合いが長い。それゆえヴァンの心中は手に取るように察することが出来る。

 その経験から、ヴァンは感情を露骨に表す人族では無いと言うことを分かっていた。

 もし誰かに悟られるくらい怒りを出しているのならば、それは相当なものなのだ。溜まり続けた破裂寸前の火山の様相を呈している、と言っても過言ではない。


 不機嫌さを隠そうともせず、ヴァンは生徒会室に向けて歩き続け、乱暴に生徒会室のドアを開け放った。

 目に飛び込んでくるのは自分の机に、極めて絶妙な釣合が取られた手紙の大軍勢。それらどれを見ても丁重に装丁がなされており、明らかにヴァンが望まないことが書かれているのが分かる。


ビキッ!


 日常生活では全く聞いたことがないセリフを聞いた気がした。それはヴァンの血管が切れた音だと分かったのはすぐ後だ。


「……………………っ!」

 ヴァンが生徒会長机に直行して、拳を振り上げてる。固く握られた攻撃性に特化した手を打ち付ける。

「がぁ!」

 と見せかけて寸前で拳を止める。


「…………っ!ぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」


その代わり思い切り吠えた。

天を仰ぎ、頭を抱えている状態で。喉奥から絞り出すようにして空気を振るわせる。

『苦悩』という一枚の絵として出展できそうでさえある。

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